PTSDは、「Post Traumatic Stress Disorder」の頭文字をとったもので、「心的外傷後ストレス障害」と和訳され、過去のショッキングな出来事がよみがえることで起こる、様々な障害のことを指します。
今回は、このPTSDについてご紹介していきます。
PTSDのきっかけは?
これまでに、戦争、犯罪、災害、事故、暴力、虐待などのショッキングな体験をしていたり、強い精神的ストレスを受けていた場合に、それがトラウマ(心的外傷)となって、PTSDを発症すると言われています。
アメリカでは、1980年代に、ベトナム戦争から帰国した兵士の症状からPTSDが注目され始めました。
日本では、1995年に起きた阪神淡路大震災がきっかけで、PTSDという言葉が注目を集めるようになったと言われています。
◆最近では、こんなきっかけも…
現代人には欠かせなくなったSNSにおいても問題が起こっています。2018年、Facebookにアップされた不適切なコンテンツを削除する作業を行っていた従業員がPTSDになり、集団訴訟を起こしたとのニュースがありました。
必要なトレーニングや安全性、医療サポートなどが提供されていない状況で、苦痛を感じるようなコンテンツを毎日大量に見続けたため、トラウマになってしまったと本人は主張しています。
実体験だけではなく、繰り返しショッキングな映像を見ることによっても、PTSDは起こり得るのです。
どんな人がPTSDになりやすい?
もちろん、ショッキングな体験をした人全てがPTSDになるわけではありません。同じような体験をした人でも、PTSDになる人もいれば、ならない人もいます。それでは、どんな人がPTSDになりやすいのでしょうか。
発症に影響する要因としては、遺伝的要素や、これまでに精神的な病を患ったことがある、過去にも別のトラウマになるような出来事を体験したことがある、などが考えられています。また、男性より女性の方が発症しやすいとも言われています。
PTSDの症状は?
PTSDの症状として、トラウマの再体験が挙げられます。突然過去の辛い記憶がよみがえったり(フラッシュバック)、その出来事に関連した悪夢を何回も見たりすることがあります。
また、以下のような症状も出てきます。
- トラウマになった出来事に関連した状況や場面を避ける
- トラウマになった出来事の重大な部分のみを思い出せなくなる
- 家族や友人など親しい人に対しても過剰な警戒心を抱く
- 神経が張りつめて、イライラしやすくなり、物事に過敏になる、また不安や緊張が続く
- 集中力がなくなったり、無気力になったりする
- めまいや頭痛、睡眠障害
PTSDに悩む人の中には、こういった症状の辛さから、離婚したり、仕事を辞めることになったりする人もいます。また、アルコールや薬物に逃避して、依存症になる人もいます。最悪のケースでは、自殺してしまうこともあります。
とはいえ、誰でも、命にかかわる強いストレスにさらされると、一時的にストレス反応を起こすのは当然のことで、通常は1~2カ月で自然に症状が収まっていきます。ですので、辛い体験をした後に、このような症状が出てきた場合は、安全な場所に身を置いたうえで、まずは様子を見ることも大切です。
もし数カ月たっても、これらの症状がよくならない場合、また悪化する場合は、専門家を受診してください。
また、専門的な相談窓口も活用してみましょう。例えば、犯罪に巻き込まれたなどの場合は、犯罪被害者の会などの相談窓口を利用するのも良いでしょう。また、地震などの災害では、救護スタッフの中にカウンセラーがいる場合があります。
他にも、精神保健福祉センター、精神科や心療内科などには、PTSDの専門医やカウンセラーが在籍しているところも多くありますので、事前に問い合わせてみるのも良いかと思います。
PTSDの治療法は?
PTSDの治療として有効とされているのが、トラウマに焦点をあてた認知行動療法です。その中でも、持続エクスポージャー療法は、高い治療効果が証明されています。
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持続エクスポージャー療法では、患者のトラウマになっている出来事をあえてイメージさせたり、避けていた辛い記憶を思い起こさせるようなきっかけを作り、少しずつ慣れさせていくことで、心の傷の原因となっている恐怖や、PTSDの症状を和らげていきます。
他の治療法としては、(※)EMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)や、同じトラウマを持つ人々が話し合うグループセラピーなどがあります。
また、不眠、強い不安感、うつ状態、自殺願望などがある場合は、薬による治療を行うこともあります。
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の坂口昌徳准教授らは、2017年、イギリスのオックスフォード大学と共同で研究を行い、睡眠中、トラウマに関連する音を聞かせると、トラウマ記憶を弱められることを発見しました。
その際には、レム睡眠(浅い眠り)でなくノンレム睡眠(深い眠り)中に音を聞かせることが重要であることも明らかになっています。
今後、もしかしたら新しい治療法が確立されるかもしれませんね。
家族や友達など親しい人がPTSDになったら…
家族がPTSDになった場合は、本人が安心できる環境づくりに努めましょう。
PTSDになる人は、「自分がいけないから、こうなったんだ」と自分を責めていることも多くあります。
もし、PTSDである家族や友達が自分のことについて話をしてくれた時には、じっくりと話を聞くことが大切です。否定的な言葉はもちろん、親身になってなぐさめたり、どうすれば良かったのか話しても、本人は傷ついてしまう可能性があります。ただ黙ってじっくりと話を聞くことで、少し本人の気持ちも楽になるかもしれません。
しかし、性的な被害(痴漢、レイプなど)や虐待が原因でPTSDになっている場合は、人になかなか打ち明けられず、周りが気付かないところで一人悩みを抱えこんでいることも少なくありません。その結果、PTSDの症状が長引くこともあります。
また、飲酒や喫煙の増加など生活習慣の悪化は、PTSDを誘発すると言われています。コーヒーやお茶に含まれるカフェインも、飲むと頭がすっきりするイメージがありますが、不安がある時には、かえってその不安が強くなってしまうのです。
最近、友達や家族の飲酒・喫煙が増えている、以前よりも生活習慣が悪化している、という場合、本人に何か嫌なことがあったのかもしれません。
たとえ、本人がトラウマになるレベルの体験をしていなかったとしても、友達や家族などの身近な人が、ちょっとした兆候に気付いて手を差し伸べることはとても大切です。それとなく声をかけたり、相談しやすい雰囲気を作るなど、心がけてみてください。
みんなのメンタルヘルス PTSD
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_ptsd.html
睡眠中にPTSDケア —トラウマ記憶を音で消す—
http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201704121800.html
PTSD のための持続エクスポージャー療法研修
https://www.ncnp.go.jp/pdf/20160613seminor.pdf