この対人恐怖症は、10人に1~2人がかかるとも言われており、決して他人事ではありません。
今回は、この対人恐怖症について、特に仕事の場面に触れながら、ご紹介していきます。
対人恐怖症ってどんな病気?
対人恐怖症は、診断基準の改訂により、現在では、社交不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)に分類されています。ただ、一般的には対人恐怖症という言葉の方が馴染みがあるため、今回は対人恐怖症として説明していきます。
例えば、初対面の人に会う時、また、大勢の人の前で発言しなくてはいけない時など、私たちは少なからず緊張しますよね。でも、その緊張や不安、恐れの度合いが強過ぎて、日常生活に支障をきたす場合、対人恐怖症の疑いがあります。
日常生活に支障をきたす状態というのは、仕事の場面で言えば、面接に行けない、出勤できない、仕事のアポイントの電話がかけられない、取引先と打ち合わせが出来ない、分からない事を聞けない、会議で発言できない、等です。
対人恐怖症に悩む人は、女性に多く、その数は男性の約2倍ほどとも言われています。対人恐怖症は10代で発症することが多いのですが、実際に日常生活に支障をきたしたり、病院にかかったりするのは、20~30代が多いとされています。
これは、就職し、社会に出ることで、それまで関わってこなかった人とも関わらなくてはいけなくなったり、体験しなかったようなことを体験したりすることによって、戸惑ったり、悩んだりすることも原因だと言われています。
どんな人がなりやすい?
対人恐怖症になりやすい傾向にあるのは、他者の存在を気にし過ぎる人、真面目で完璧主義の人、神経質な人、恐怖心を持ちやすい人などとされています。
また、対人恐怖症は、幼い頃の体験が影響しているとも言われています。例えば、もともと繊細な性格の子どもが、友達に失敗を笑われるなどして傷ついたことにより、人付き合いが苦手になっていくことがあります。それでも、学生の間は何とか過ごしていくものの、就職してから会社で上司に叱られたりすることが大きなきっかけとなり、ついには人前に出られなくなったり、話せなくなってしまったというケースもあるのです。
対人恐怖症のタイプ
対人恐怖症には様々なタイプがあります。その代表的なものとして、以下が挙げられます。
- 赤面恐怖
- 人前に立つと、顔が赤くなってしまう
- スピーチ恐怖
- 発表や披露宴などで、スピーチする時に強いプレッシャーを感じてしまう
- 視線恐怖
- 人が自分のことを見ているような気がしたり、他人の視線が怖くなってしまう
- 会食恐怖
- 自分が食事をしているところを人に見られると、緊張して食べられなくなってしまう
- 電話恐怖
- 他の人に聞かれていると思うと緊張して、電話がかかってきても電話が取れなくなってしまう
- 書痙(しょけい)
- 人前で字を書こうとすると、手が震え、うまく書けなくなってしまう
いずれも、仕事をする上で支障になるものばかりですね。
対人恐怖症の場合、人と接することはもちろん、仕事をするのが困難なことも多いため、「仕事を辞めたい」と考える人も少なくありません。しかし、辞めることには慎重になった方が良いでしょう。
なぜなら、退職することで、必然的に人と関わる機会が減ってしまい、ますます人に対する恐怖や不安が膨れあがって、対人恐怖症が悪化することがあるからです。
ただし、すでに対人恐怖症が重度の場合は、うつ病などの病気を併発することもあるので、無理は禁物です。仕事を辞めた方が良いか、続けた方が良いかは、医師やカウンセラーなど専門家への相談が必要になってくるでしょう。
対人恐怖症を克服するために
人と接することへの不安や恐怖が著しく、仕事を含め生活に支障がかなり出てしまっているという場合は精神科や心療内科へ行って、治療を受けましょう。
治療法としては、薬物療法や認知行動療法、森田療法などの精神療法・心理療法があります。
薬物療法では、緊張や不安を和らげるお薬が処方されます。
精神療法・心理療法では、対人の不安について受け止め方を変えていったり、悩んでいる自分自身を受けいれたりして、ある程度不安を持っていても生活に支障が出ないようにしていきます。
薬物療法と精神療法・心理療法は、併用していくことが望ましいです。
対人恐怖症に悩んでいる人の中には、症状が出ていても病気として認識しておらず、自分の性格が原因だと考えていたり、周囲に助けを求められずに、一人で苦しみを抱え込んでいる人もいます。
そんな時に必要なのが、周囲のサポートです。家族や友人などが、本人の悩みに気付いて大変さを理解し、話を聞いたり、受診に付き添ったり、治療に意識を向けさせたりすることで、悩んでいる人は気持ちが楽になっていきます。ただし、周囲があまり心配しすぎると、かえって不安を強めてしまうこともありますので、注意しましょう。
心療内科や精神科のクリニックでは、対人恐怖を専門に診ているところも多いので、事前に電話やメールなどで問い合わせたり、HPを見て調べてみるのも良いでしょう。
人と接する時に緊張や不安を感じたら…
対人恐怖症とまではいかないまでも、誰でも職場で人と接する場面において、緊張や不安を覚えることはありますよね。そんな時は、次のような方法を試してみてください。
生活習慣を見直す
生活習慣が乱れていると、普段は何でもないことでも、過敏になってしまったり、不安になりやすくなったりします。日々の残業や長時間労働による、睡眠・運動不足や、不規則な食生活、飲酒の習慣化など、心当たりはありませんか?カフェインの取り過ぎも精神に作用します。仕事中にコーヒーを何杯も飲む人は、注意して下さい。もし、心当たりがあれば、意識して改善していきましょう。
鏡の前で笑顔を作る
職場で、「あの人には会いたくない」、「会議が憂うつ」などの思いを抱えていると、自然と表情がこわばっていることも。もしかしたら、関係ない人にまで身構えさせてしまっているかもしれません。
そうならないためにも、出勤前や休憩時間などには、鏡の前で自分の表情を確認してみてください。もし、暗いどんよりとした顔や、緊張しているような顔をしていた場合には、鏡の前で意識的に笑顔を作ってみて。そうすることで、顔のこわばりも和らぎ、心もリラックス出来ます。
自分から積極的にあいさつをする
苦手な人や人と関わりたくない時には、出来るなら声をかけたくないもの。でも、接触を避けていると、印象が悪くなり、相手からの当たりが強くなってしまうかもしれません。これでは悪循環です。
そんな時は、あえて意識的に自分からあいさつをしていきましょう。人は、通常なら、あいさつされると嬉しくなり、リラックスするものです。あなたから声をかけることで、あなたへのイメージが良くなるのはもちろん、あなた自身の緊張もゆるんでいきます。
普段挨拶しない相手だと、最初は不思議そうな顔をされるかもしれませんが、2、3日続けてみて下さい。習慣化していくと、相手からも返事が返ってくるようになりますよ。
意識的に呼吸を深くする
対人的に不安を抱えている時というのは、どうしても緊張してしまう場面があるものです。そういった時は、呼吸を整えることが大切です。
人は緊張すると、自然と呼吸が浅くなります。ですから、リラックスして、深い呼吸をすることが大切です。深呼吸や腹式呼吸をしてみましょう。
更にリラックス度を高めるには、自律訓練法※、マインドフルネス呼吸法なども効果的です。いくつか試してみて、自分にとってやりやすいものを取り入れてみましょう。
※自律訓練法…自分自身をコントロールすることによって、不安や緊張を和らげ、筋肉を弛緩させることで、自律神経の働きのバランスを整えていくもの。パニック障害の治療にも取り入れられる場合があります。
オススメ
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対人関係に不安を抱いている人へ
対人恐怖症(社交不安障害)の人、また、対人関係に不安を抱いている人は、人から見られることを強く意識しており、「失敗してはいけない」という思いを抱いていることも少なくありません。
そのことが過剰な緊張につながり、症状が出ている場合もあるので、リラックスすることが大切です。例えば、「少しくらいなら失敗しても大丈夫」と、心の中で唱えるようにしてみましょう。きっと少しずつ心の緊張がほぐれていきますよ。