そもそも「キダルト」とは何者で、なぜ今これほど注目されているのでしょうか。
「キダルト」とは?意味と対象年齢をわかりやすく解説
「キダルト」とは、英語の「Kid(子ども)」と「Adult(大人)」を組み合わせた言葉で、大人になっても子ども向けとされてきた玩具やキャラクターグッズ、ゲームなどを楽しむ人を指します。
対象はフィギュアやプラモデルだけではありません。シルバニアファミリー、リカちゃん、トミカ、たまごっち、カプセルトイ、ぬいぐるみなど、ジャンルは多岐にわたります。こうした大人の趣味や消費が社会的に目立つようになることは「キダルト現象」、関連する市場は「キダルト市場」と呼ばれます。
言葉だけを聞くと「子どもっぽい大人」という印象を受けるかもしれません。しかし実際には、幼い頃の記憶を楽しむ人もいれば、造形やデザインに価値を見いだすコレクターもいます。単なる精神的な幼さを表す言葉ではありません。
対象となる年齢層はどのくらい?
キダルトに公的な年齢の定義はありません。一般には、玩具やキャラクター商品を自分の可処分所得で購入する成人が広く含まれます。
市場動向では、子ども時代に豊富な玩具やアニメ、ゲームに触れてきたミレニアル世代を中心に、20〜40代が主な担い手とされる傾向があります。ただし、10代後半の若者や50代以上のコレクターも珍しくありません。年齢よりも、何をどのように楽しんでいるかに焦点を当てた言葉です。
「キダルト」はいつから使われている言葉?
「キダルト」自体は目新しい言葉ではありません。Kid(子ども)とAdult(大人)を組み合わせた「Kidult Marketing」という表現は、2000年代前半に欧米のマーケティング業界ですでに使われていました。日本でも2010年代半ばから業界用語として使われ始めていましたが、一般に広く知られるようになったのはごく最近のことです。
その転機を象徴するのが、東京おもちゃショーが主催する「日本おもちゃ大賞」です。従来「ハイターゲット・トイ部門」と呼ばれていた区分は、2024年に「キダルト部門」へと名称を変更しました。業界の専門用語だった言葉が”公式カテゴリー名”として定着したのが2024年、そして2026年のトイザらス上野マルイ店の開店は、その流れが小売の最前線にまで広がったことを示す出来事だといえます。
トイザらスが上野マルイに“大人向け玩具専門店”、初日から行列に
キダルト人気を象徴するのが、日本トイザらスの新業態です。2026年7月17日、東京・上野マルイ地下1階に、大人をメインターゲットとする「トイザらス 上野マルイ店」がオープンしました。
売場面積は約102.66平方メートル。従来の郊外型店舗と比べるとコンパクトですが、大人が立ち寄りやすい都市型の売場に、コレクション性や話題性の高い商品を集めています。
反響は予想を上回りました。開店前には約100人が列を作り、初日の売上高は計画比386%を記録。触感や造形を楽しめるiBLOOMのスクイーズ、世代を超えてファンを持つ「スター・ウォーズ」の関連グッズなどが人気を集めました。
子どもへの贈り物を買う場所だった玩具店が、大人自身の趣味を探す場所へ変わりつつあります。初日の数字は、その変化が一時的な話題だけではないことをうかがわせます。
SNSでの反応は賛否両論
X(旧Twitter)では、新業態の登場を歓迎する投稿が見られます。新商品を実際に見たい、仕事帰りに立ち寄りたい、コレクション欲を刺激されるといった反応です。大人が周囲の目を気にせず玩具を選べる売場に、居心地のよさを感じる人もいます。
一方、「キダルト」という言葉そのものを安易な流行語や揶揄のように感じる人もいます。趣味を個性のアピールに使う風潮への違和感や、企業が新しい購買層を作るための商戦にすぎないという冷静な見方もありました。
ただ、否定的な反応のすべてが玩具好きへの攻撃というわけではありません。趣味の楽しみ方ではなく、浪費や過剰な消費を心配する声も含まれています。歓迎と戸惑いが並ぶのは、「おもちゃは子どものもの」という価値観がまだ完全には消えていないからでしょう。
なぜ今、大人が「子ども向け」だったおもちゃに惹かれるのか
キダルトがトレンドになった理由は、大きく三つに分けられます。幼い頃の安心感に触れられるノスタルジー、大人になって得た経済力、そして好きなものを共有できるSNSです。
かつて欲しくても買えなかった商品を手に入れる。箱のまま保存する。ぬいぐるみと一緒に出かけ、写真を投稿する。同じ玩具でも、楽しみ方は子ども時代より広がっています。
背景にあるのは、「大人らしさ」に対する価値観の変化です。年齢にふさわしい趣味を選ぶのではなく、自分が心地よいと感じるものを選ぶ。では、その行動は過去への逃避なのでしょうか。心理学の見方は、もう少し肯定的です。
ノスタルジーは「逃避」ではなく「セルフケア」――心理学の視点
ノスタルジーは、以前は過去への逃避として否定的に語られることがありました。しかし近年は、他者とのつながりを強め、過去と現在の自分を結ぶ「自己の連続性」を支える感情として研究されています。
心理学者のヴィーダーホルト(Brenda K. Wiederhold)は、2024年に学術誌『Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking』へ発表した論考「Nostalgia as Self-Care: Embracing the Kidult Culture」で、キダルト文化をセルフケアの観点から論じています。不安定さを感じやすい時代に、親しんだ玩具やキャラクターが安心感を取り戻す手掛かりになりうる、という見方です。
昔好きだったものを手に取る行為は、現在を拒むこととは限りません。忘れていた自分の一部を、今の生活へ連れ戻す行為にもなります。
経済力とSNSでの発信力が消費を後押し
子ども時代には、欲しい玩具があっても自由に買えるとは限りませんでした。大人になれば、自分の経済力と判断で複数の商品をまとめて買う「大人買い」ができます。高価格の限定品や精巧な模型にも手が届きます。
SNSの存在も大きいでしょう。コレクションを撮影して投稿すれば、同じ作品を好きなファンと地域を超えてつながれます。集めるだけでなく、飾り方や撮り方、持ち歩き方まで共有されるため、一つの商品から新しい楽しみ方が生まれます。
一人で完結していた趣味が、ゆるやかな交流へ変わった。それが消費を長く支えています。
少子化でも玩具市場が伸び続ける理由――1兆円市場の実態
少子化が進めば、玩具市場は縮小する。そう考えるのが自然です。ところが、実際の数字は逆方向へ動いています。
日本玩具協会が2026年6月に公表した2025年度の国内玩具市場規模は、希望小売価格ベースで前年度比6.3%増の1兆1,664億円でした。2019年度以降、6年連続で過去最高を更新し続けており、2023年度に初めて1兆円を超えた後も拡大基調は途切れていません。
2025年度にとくに伸び率が大きかったのが「ぬいぐるみ」で、前年度比138.2%増を記録しました。「モンチッチ」人気の再拡大に加え、大阪・関西万博のキャラクター「ミャクミャク」や、「スーパーマリオ」「星のカービィ」といったキャラクターぬいぐるみが市場を牽引しています。旅行先に人形を連れて行って写真を撮ったり、棚に並べて眺めたりする楽しみ方の背景にあるぬいぐるみを好きになる心理は、キダルト消費とも重なる部分が多いテーマです。
総務省統計局によると、15歳未満の子どもの人口は減少傾向にあります。それでも玩具が売れるのは、顧客が子どもだけではなくなったからです。トレーディングカード、模型、カプセルトイ、キャラクター商品などを大人が継続的に購入し、訪日客による需要も加わっています。
子どもの人数と玩具市場の大きさが単純には連動しない。その構造を作った存在の一つが、キダルト層です。
| 年度 | 国内玩具市場規模 |
|---|---|
| 2020年度 | 8,267億円 |
| 2021年度 | 8,946億円 |
| 2022年度 | 9,525億円 |
| 2023年度 | 1兆193億円 |
| 2024年度 | 1兆992億円 |
| 2025年度 | 1兆1,664億円 |
キダルト消費を支える3つの特徴
キダルト消費の強さは、次の三つに整理できます。
-
高い購買力
自分の可処分所得で購入できるため、単価の高い限定品や複数商品にも手を伸ばせます。子どもの頃には難しかった大人買いが、再購入やシリーズ収集につながります。
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SNSでの発信力
開封動画、棚のディスプレー、ぬいぐるみとの外出写真などを投稿し、ファン同士で情報を共有します。投稿を見た別の人が商品を知り、人気が広がる循環も生まれます。
-
趣味・商品ジャンルの多様化
玩具の対象は、模型やフィギュアだけではありません。ミニチュア、ドール、カード、スクイーズ、カプセルトイなどへ広がり、好みや予算に合う入口を見つけやすくなっています。
購買力だけなら、一度のぜいたくで終わるかもしれません。SNSでの交流と商品の多様化が重なることで、趣味が継続し、市場全体を押し上げています。
キダルトに人気の玩具・グッズ事例
キダルト向けの商品は、最初から大人専用として作られたものばかりではありません。子ども向けとして長く親しまれてきたシリーズが、精巧な造形やSNSでの新しい遊び方によって再評価される例も目立ちます。
日本おもちゃ大賞の「キダルト部門」は毎年受賞商品が入れ替わります。2024年の大賞はタカラトミー「リカちゃん フォトジェニックリカシリーズ」、優秀賞はセガトイズ「ぷにジェル サンリオキャラクターズ 推し活ぷに」でした。翌2025年の大賞は、立体パズル「はずる ポケットモンスターシリーズ」(ハナヤマ)。フィギュア系だけでなく、パズルやコスメ雑貨まで受賞ジャンルは幅広く、特定の商品が恒久的な「キダルト部門のおもちゃ大賞」というわけではありません。
シルバニアファミリー――SNSで広がる“大人の楽しみ方”
エポック社のシルバニアファミリーは、かわいらしい人形と精巧な家具、建物を組み合わせて小さな世界を作れる玩具です。幼い頃に遊んだ世代が大人になり、再び集め始めるケースも少なくありません。
近年は、赤ちゃん人形や小物を外へ持ち出して撮影する楽しみ方がSNSで広がりました。季節の風景やカフェの料理と一緒に撮り、物語を感じさせる一枚に仕上げます。遊ぶ、飾る、撮るという複数の楽しみ方があるため、大人の趣味として続けやすいのでしょう。
ブラインド形式の商品には、開封するまで中身が分からない面白さもあります。一方で、欲しい商品が出るまで買い続けると出費が膨らみやすいため、交換文化や中古流通も活用されています。
タカラトミー――トミカ・リカちゃんの大人向けライン
タカラトミーは、長寿ブランドを大人も楽しめる形へ展開しています。トミカでは、車体の造形や塗装にこだわった「トミカプレミアム」などが支持され、実車ファンやコレクターの需要をつかみました。
リカちゃんでは、自然なポーズを付けやすく、写真撮影を意識した「フォトジェニックリカシリーズ」が登場。2024年の日本おもちゃ大賞キダルト部門で大賞を受賞しています。子ども向けドールの記憶を残しながら、ファッションや撮影を楽しむ大人の感覚に合わせた商品です。
懐かしさだけに頼らず、素材や可動性、再現度を高めている点が重要です。思い出の商品をそのまま復刻するのではなく、今の大人が買いたくなる品質へ更新しています。
たまごっち・カプセルトイ――手に取りやすい価格帯の“推し活”需要
1990年代に流行したたまごっちは、通信や収集などの要素を加えながら展開が続いています。子ども時代に初期商品へ触れた世代にとっては懐かしく、若い世代にはレトロで新鮮に映る。異なる世代が同じシリーズを楽しめる点が強みです。
カプセルトイも、数百円程度から試せる入口の広さで大人のファンを増やしました。食品や家電を精巧に再現したミニチュア、人気キャラクターのマスコットなど、机や棚に飾りやすい商品がそろいます。
推しているキャラクターの商品を集める「推し活」とも相性がよく、見かけたときに一度だけ回す気軽さがあります。ただし少額でも回数が増えれば支出は大きくなるため、月ごとの上限を決めておくと安心です。
海外でも広がる“キダルト”トレンド
大人による玩具消費は、日本だけの現象ではありません。米国の調査会社サーカナ(Circana)によると、2024年第1四半期には18歳以上の大人による玩具購入額が、これまで最大の顧客層だった3〜5歳児向けを初めて上回りました。世界全体で見ても、大人は玩具売上の約3割を占めるまでに拡大しています。欧州でも2023年、キダルト層による玩具購入額は48億ドルを超えました。
レゴが2024年に展開を強化した18歳以上向けライン「LEGO Icons」も好調で、業界全体の売上が伸び悩むなかレゴの消費者向け売上は前年比12%増を記録しています。トイザらス上野マルイ店の登場は、こうした世界的な潮流が日本の実店舗にも波及した一例と見ることができます。
「気持ち悪い」「恥ずかしい」という声にどう向き合うか
大人が玩具を集めることに対し、「気持ち悪い」「恥ずかしい」と感じる人がいるのも事実です。「おもちゃは子どものもの」という固定観念が強ければ、成人が夢中になる姿を幼く感じるのでしょう。高額なコレクションを浪費と捉えたり、SNS上の投稿を過剰な個性アピールと受け取ったりする場合もあります。
「キダルト」という名称自体が、大人と子どもを無理に分類した企業側の流行語に見えることもあります。言葉に違和感があるからといって、個々の趣味まで否定しているとは限りません。
一方、ヴィーダーホルトが前述の論文で述べたように、ノスタルジーには過去と現在の自分を結び、安心感や他者とのつながりを支える働きが期待できます。好きだった玩具に触れて気持ちが落ち着くなら、それは現代人にとって一種のセルフケアになりえます。
もちろん、生活費を圧迫する購入や、仕事・学業、人間関係に支障が出るほどの没入には注意が必要です。けれど、節度を保って楽しんでいる趣味を、年齢だけを理由に恥じる必要はありません。大切なのは「大人らしい物を選んでいるか」ではなく、その楽しみ方が自分や周囲の生活を損なっていないかです。
まとめ
キダルトとは、大人になっても玩具やキャラクターグッズなどを楽しむ人のことです。ノスタルジーに加え、経済力やSNSでの交流、商品の多様化がトレンドを後押しし、少子化のなかでも国内玩具市場は1兆円を超える規模へ拡大しました。
玩具を楽しむ理由は人によって違います。思い出に触れたい人もいれば、造形や撮影、収集そのものを愛する人もいます。キダルトは一部の人だけの特殊な趣味ではなく、親しんだものに安心を求める、誰もが持ちうる感情に根ざした自然な消費行動といえるでしょう。



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