アサーションで、上手に伝える。

アサーションで、上手に伝える

最近「アサーション」を学ぶ人が増えています。今「アサーションって?」と思ったあなた、人間関係での悩みはありませんか?人間関係における悩みの解消、良好なコミュニケーションの構築に、この「アサーション」の考え方やテクニックが役に立ちます。自分も相手も尊重しながら、正直に自己表現し、率直で気持ちのよいコミュニケーションができるようになる「アサーション」を、生活や仕事に取り入れてみませんか?

アサーションとは

あなたはアサーションという言葉を聞いたことがありますか?最近はビジネス心理学などで話題になることもあるので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。

アサーションとは、お互いの違いを前提に、お互いの意見を尊重しながら正直なコミュニケーションをするための態度とスキルのことで、もともとは行動療法という心理療法の中から生まれたカウンセリング技法でした。

アサーションとカウンセリング

アサーションが心理カウンセリングの現場で活用されているのは、クライアントとの信頼関係を築く上でカウンセラー自身にも役立ち、コミュニケーションを苦手とするクライエントに実践してもらうことで、本人のコミュニケーション・スキルのアップが期待できるからです。

アサーションによって相互理解が進むと、お互いの信頼関係も深まり良い人間関係に繋がるため、現在では学校や仕事だけでなく、家族や子育て、友人関係まで、すべてのコミュニケーションに役立つスキルとして学ぶ人が増えています。

コミュニケーションの3タイプ

アサーションの理論では、自己表現を以下の3タイプに大別できるとされています。それは、「アグレッシブ(攻撃的)」、「ノンアサーティブ(非主張的)」、そして「アサーティブ」です。それでは、少し詳しく見ていきましょう。

アグレッシブ(攻撃的)タイプ

アグレッシブ(攻撃的)なタイプとは、考え方が自己中心的で相手のことは全く考慮に入れず、自分の主張だけを押し付けるタイプです。相手がどんな気持ちになるかなどは考えずに、相手の心に土足で踏み込んだ言動をします。「自分が1番」「相手はダメ」と決めつけて相手の状況を聞こうとせずに頭ごなしに怒鳴りつける、などがわかりやすい例です。

また、攻撃性は見せずに、相手を自分の思い通りに操作しようとする態度を『作為的態度』と言います。相手が罪悪感を抱くように仕向けたり、相手に恥をかかせたりすることで、相手を自分の意のままに従わせようとします。こちらはアグレッシブな態度と分けて考えることもありますが、いずれの場合も、相手のことは全く考えない自分中心のコミュニケーションの取り方と言えるでしょう。

ノンアサーティブ(非主張的)タイプ

次に、ノンアサーティブ(非主張的)なタイプです。こちらは自分の考えや感情は後回しにして相手の意見に合わせたり、自分の意見を言いそびれたりするタイプです。自分に自信が持てず、自分より周りの人や状況を優先することが相手への誠意であると信じていることが多いようです。

ただ自分の意見を出さないだけではなく、あいまいな言い方をするのもこのタイプに当てはまります。このタイプは「どうせ話しても通じない」「自分の考えはダメだ」という気持ちがあります。そのため、自分の思いを伝えなかったのに、「相手の言うとおりにしたのに 相手は自分をわかってくれない」と恨みがましく思ったりもします。

アサーティブタイプ

最後はアサーティブなタイプです。このタイプは自分も相手も同等に大切に扱って、自己主張しつつも相手が不快にならないようにしますので、その場にふさわしい表現方法を選択することができます。「意見が合わないこともある」ことを理解し、相手との意見の違いを恐れません。例え、異なる意見を持っていても、頭ごなしに相手を打ち負かしたり、遠慮して相手に合わせたりするのではなく、お互いが歩み寄って納得のいく結論を探ろうとします。
(※「アサーティブ」というのはアサーションの形容詞であり、意味は同じです。)


以上、コミュニケーションの3タイプについてご紹介しましたが、「仕事の時はノンアサーティブになりがちだが、家族の前ではアグレッシブになりがち」など、誰しも状況に合わせて、コミュニケーションの取り方はかわることがあります。ただ、どの場面でも、できるだけ「アサーティブ」であるほうが、双方にとって心地よいコミュニケーションとなるのではないでしょうか?

日々、少しずつ意識をするだけでもアサーティブなコミュニケーションを身に付けることができます。人間関係のストレスを減らし、快適な毎日を過ごすために、2つのアサーション・トレーニングをご紹介します。

アサーションのトレーニング①:DESC法

DESC法とは問題解決のためのアサーションとも呼ばれており、頼み事をしたり、言いにくいことを伝えたりするときに役立つ方法です。

1.Describe(描写する)→2.Explain(説明する)→3.Suggest(提案する)→4.Choose(選択する)の順番に話すことで、自分の言い分をアサーティブに伝えることができます。これら4つの過程の頭文字をとってDESC法と言います。

ここでは例として、定時に仕事を終えて帰宅準備をしているあなたに、先輩が仕事を頼んできたとします。あなたには予定があり、先輩の仕事は自分の担当する内容ではありません。先輩の依頼をどのように断ればいいのかをDESC法で考えてみましょう。

1.Describe(描写する)
問題となっている状況を客観的に伝えます。具体的な事実を伝え、自分の考えや感情など主観的な内容は伝えないようにします。
(例)「今日は予定がありまして…。また、こちらは普段私の担当でないため内容がすぐにわかりかねますが…。」

2.Explain(説明する)
自分の考えや感情(主観)を伝えます。“1.Describe”で伝えたことに対する自分の気持ち、相手の気持ちへの共感を伝えます。相手に感情をぶつけるのではなく、相手と対等な立場で寄り添うことを意識します。
(例)「申し訳ないのですが、今日は、先輩のお役に立てそうにはありません。」

3.Suggest(提案する)
自分と相手、双方にとって最適な解決方法を提案します。
“1.Describe”、”2.Express”を参考に、自分ができる妥協案や解決策を具体的に提案します。ここでは、あくまで「~はどうか」といった提案であることが大切です。相手への押し付けや依頼にならないよう気を付けましょう。
(例)「明日の10時以降でしたら、他のことで何かお手伝いできるかと思うのですが、いかがでしょうか?」

4.Choose(選択する)
あらかじめ相手が提案にYES、NOを示した場合を想定しておきます。相手には断る権利がありますから、相手がNOと言ったの場合の代替案を考えておくといいでしょう。
(例)YESの場合→「それでは明日お手伝いいたします。今日は失礼します。」
   NOの場合→「それでは内容がわかりそうな同僚に声をかけてみます。」

もし、このDESC法が難しく感じるようなら…

このDESC法を意識して話すのは難しいと思ったときは、目の前の問題について「事実」なのか「主観(あなたの考え)」なのかを意識してみるだけでも、アサーションのトレーニングとなります。

例えば、友人があなたとの待ち合わせに30分遅れてきたとします。

事実は「30分待った」ですが、あなたの主観は「こんなに遅れるなら、自分も遅く来ればよかった」とか「友人は時間にルーズだ」「友人はいつも遅刻してばかりで失礼だ」…などと続いていくでしょう。でも、事実は「30分待った」ことで、それ以外はあなたがその事実に対して感じた気持ちです。

誰でも思考が勝手に独り歩きしてしまうことはあります。特に不安なことがある場合は、頭の中で誰かを悪者に仕立てあげたり、悪いことが起きるのでは…と想像したりしやすいものです。そのような自分に気が付いたときは、それが果たして「事実」なのかを考えるだけで、冷静になり、落ち着いてアサーティブなコミュニケーションに戻ることができます。ぜひDESC法を活用したり、「事実」「主観」を意識してみてください。

アサーションのトレーニング②:「I(アイ)」メッセージ

また、こちらも簡単に取り入れやすいアサーションのコミュニケーションスキルで、自分の気持ちを相手に正直に伝えるときに役立ちます。「I(アイ)」とは「私は(が)」の意味ですが、相手に伝えるときの主語を「私は(が)」とするだけで、アサーティブな伝え方ができるようになります。

例えば、待ち合わせに30分遅れた友人に対し、「30分も遅れてくるなんて、失礼だ!」は「YOU」メッセージです。「30分も遅れるなんて、あなたは(YOU)失礼だ」と相手を非難しています。これを「I(アイ)」メッセージに変換すると、「あなたが30分遅れてきたことで、私は(I)悲しかった」となり、相手を責めるのではなく、相手が遅刻した事実に対して自分がどう思ったのかを伝えるメッセージとなります。

今度は、立場を入れ替えて考えてみましょう。

もしあなたが遅刻した友人の立場だった場合、どう思うでしょうか?あなたは遅刻したのは悪かったと思っていますが、仕事の都合で予定の時間に退出できず、電話連絡もできなかったとします。それなのに「YOU」メッセージで一方的に非難されたら、思わず反発したくなるかもしれません。でも「I(アイ)」メッセージで相手の気持ちが分かったら、素直に謝って事情を話す気になりますよね?

このように、「I(アイ)」メッセージを使うことで、相手を非難することなく自分の気持ちを正直に伝えるアサーティブなコミュニケーションができるようになります。

自分のことも、相手のことも、等しく大切に扱うアサーション。ぜひあなたの日常生活の中に取り入れてみてください。