「怒り」の心理とアンガーマネジメント
なぜ私たちは怒りという感情を覚えるのでしょうか?心理学者のアドラーは、怒りは、「私が正しい」と考えることから生まれると主張しています。つまり、自分の正しいと思っていることが相手に受け入れられない時に人は怒りを感じるのです。その「怒り」の裏には相手に自分のことを理解してほしい、守ってほしいという願望が隠されています。マイナスイメージの強い「怒り」という感情ですが、実は自分の気持ちをわかってもらうための大切な感情でもあるのです。
この「怒り」の感情と上手に付き合うための心理トレーニングが、1970年代にアメリカで生また「アンガーマネジメント」です。このメソッドを学ぶことで、自分自身の怒りの原因がわかり、感情をコントロールできるようになります。
それでは、さっそく見ていきましょう!
「怒り」のタイプ
「怒りっぽい」人には、いくつかのタイプがあります。自分の怒りを把握する方法に「アンガー・ログ」があります。「怒りに関する日記帳」とも言われ、怒りを感じた日時・場所・出来事・その時の自分の言動及び感情・相手にして欲しかった事・怒ることで生じた事・怒りの強さのレベル(10段階)を記録します。まず、手帳などに記録して、自分のタイプを把握しましょう。
(1)1日、または1週間の間に、怒る回数が多かった人→頻度が高いタイプ
(2)一度怒りを感じると、爆発してしまうことが多かった人→強度が強いタイプ
(3)一度怒りを感じると、それをずっと引きずることが多かった人→持続するタイプ
(4)怒りを抑えられず、他人に身体的または精神的な暴力を振るうことが多かった人→攻撃性を持つタイプ
「アンガー・ログ」をつけることによって、自分が日々どんなことに怒りを感じやすいのか、また、怒りを感じたときに自分がどんな行動をとっているのかが、はっきりとします。それを元に自分なりにものの考え方を変えていきましょう。そうすることで、きっと怒りにくい体質に変えていけるはずです。
「怒り」の原因と心理メカニズム
誰も、好きで怒る人は居ないはず…。穏やかに過ごせたら幸せなのに、人はなぜ怒るのでしょうか?
「怒り」の原因として考えられているのが、「コアビリーフ」です。これは、誰もが持っている「自分が正しいと思っている価値観や信念」のことです。例えば、「年長者は敬うべき」とか「仕事で遅刻しないのは当然」といったものです。人は、出来事に遭遇した時、各自のコアビリーフに照らし合わせて、正しいかどうかを判断します。その際、もし「許せないこと」と判断されれば、「怒り」へと向かうのです。
また、「怒り」は二次的な感情とされています。心の根底にある「不安・寂しさ・身体的な辛さ・倦怠感・絶望」などの一次的な感情が蓄積されると、「怒り」という二次的な感情に変わります。心をペットボトルに例えると、一次感情である水がどの位溜まっているか、またペットボトルの容量の差によって、怒りやすさの個人差が生まれるのです。
リフレーミング
怒りをコントロールする方法に、「コアビリーフ」を見直す「リフレーミング」があります。先程述べたように、ある出来事と自分の価値観「コアビリーフ」を照らし合わせた時に、「正しくない」と判断されると怒りが生じます。「リフレーミング」とは、「コアビリーフ」に対し、本当にそれが正しいのか、他の考え方もあるのではないかと、中立的に考える方法です。別の考え方や可能性も受け入れることで、怒りを感じることも少なくなるのです。
前回見た、怒りのタイプが(1)の頻度が高いタイプの方は、自分の「コアビリーフ」を見直し「リフレーミング」することで、怒りの頻度を減らせるかもしれません。(2)~(4)のタイプの方も、「コアビリーフ」の見直しは大事ですが、すぐに自分の価値観を見直したり、中立的に考えたりすることは難しいもの。もし怒りを感じ、制御出来ないかも、と思った時には、次にご紹介する方法を試してみてください。
様々なコントロール法
怒りを感じたら、以下の方法をとり、一時的に意識を逸らすことで、一旦冷静になることに努めてみましょう。
(1)カウントバック法…怒りを感じたら、100から3ずつ引いたり、英語で数えたりします。怒りの対象から一瞬意識を逸らし、感情のまま行動に走ることが抑えられます。
(2)ボールペン分解法…怒りを感じたら、すぐにボールペンを手に取り、よく観察して、分解します。こちらも、ある物に意識を集中させ、瞬間的に怒りを沈め、忘れさせます。分解出来るものなら何でも良いです。
(3)コーピングマントラ法…あらかじめ自分を落ち着かせるフレーズや動作を決めておき、怒りを感じたら、すぐに心の中で唱えたり、カッとなりそうな時にその動作をしたりします。怒り以外の行為に意識を向けることで、気持ちを落ち着かせたり、怒りの対象へ行動が向かわないように時間を稼いだりすることが出来ます。
怒りを感じたら、以上の方法をとり、一時的に意識を逸らすことで、一旦冷静になることに努めてみましょう。
怒りをコントロールする事は重要ですが、時には自分が「怒っていた」事実や理由を、相手に伝える必要があるかも知れません。そんな時に役立つのが「アイ・メッセージ」。やり方は、相手に伝えるときの主語を「私は(が)」と言い替えるだけですので、こちらも活用してみてください。
相手に伝えるときの主語を「私は(が)」とするだけで、アサーティブな伝え方ができるようになります。
例えば、待ち合わせに30分遅れた友人に対し、「30分も遅れてくるなんて、失礼だ!」は「YOU」メッセージです。「30分も遅れるなんて、あなたは(YOU)失礼だ」と相手を非難しています。これを「I(アイ)」メッセージに変換すると、「あなたが30分遅れてきたことで、私は(I)悲しかった」となり、相手を責めるのではなく、相手が遅刻した事実に対して自分がどう思ったのかを伝えるメッセージとなります。
セロトニンを増やそう
脳内の「セロトニン」という物質が不足すると、怒りの感情をコントロールすることが難しくなると言われています。そのため、日頃からセロトニンを増やし、怒りをコントロールしやすくすることが大切です。セロトニンを増やすには、朝日を浴びること、十分な睡眠をとること、軽い有酸素運動をすることが有効です。
逆に、いくらストレスが溜まっているからと言って、やけ食いをしたり、攻撃的・暴力的な行動を取ったりすると、ノルアドレナリンという攻撃ホルモンが出て、さらに怒りが増幅されてしまいます。
怒りをコントロールするには、自己の振り返りと自己管理が必要です。まずは、自分の怒りについて見直してみてくださいね。
<参考>
日本アンガーマネジメント協会