カウンセラーの読書術~セレンディピティを活用するには?

セレンディピティという言葉をご存知ですか?これは、偶然のひらめきや思いがけないことを発見する能力のことを表す造語です。ビジネスの世界でも最近使われるようになってきたセレンディピティは、読書の仕方にもヒントをくれる言葉なのです。

仕事のため、資格の勉強のために本を読みたい、読書量を増やしたい。でも時間がない…。そんな悩みをお持ちの方は、ぜひセレンディピティを意識した読書術を取り入れてみてください。視点を変えて読書をすることで、今までより効率よく多くの本を読めるようになるかも知れませんよ!

セレンディピティとは?

日本ではまだ馴染みが薄いですが、その起源は古く、18世紀のイギリスの小説家であるホレス・ウォルポールが、“セレンディップの3人の王子たち”という童話から生み出した造語です。

この童話はセレンディップ(現在のスリランカ)の王子達が旅の途中で予想外の発見をする物語ですが、この物語が深く印象に残っていたウォルポールは、偶然のひらめきや思いがけない発見をする能力を「セレンディピティ」という言葉で表現しました。

日本語では「偶察力」と訳されますが、精神科医の中井久夫先生は、「徴候的知」と呼んでいます。(※心理学用語ではありません)

ビジネスの世界では、アイデアの行き詰まりや固定観念かからの脱却のためにセレンディピティを意識する経営者や起業家も登場しています。セレンディピティを発揮して、アイデアやビジネスプランを柔軟に変更できるようなスキルが、スピードの早い現代社会においては必要とされているのではないでしょうか?

セレンディピティの例

セレンディピティの例はいろいろありますが、イルカの言葉の発見もその一つと言われています。

冷戦時代、アメリカの海軍では敵潜水艦の接近に備えて。高性能の音波探査機の開発に忙殺されていました。あるとき、謎の音波がキャッチされ、某国の潜水艦かと研究者は興奮したのですが、発信源はイルカであることが分かりました。このことにより、イルカは音波によって仲間と交信していることが明らかになりました。

セレンディピティ イルカの会話の発見

人はどうしても同じ発想や考え方に偏りがちです。ひとつの考え方に固執してしまうと、アイデアに行き詰まり、真実から遠ざかってしまうこともあります。

それではこのセレンディピティを読書に活用して、読書を効率よく行うにはどうしたらいいのでしょうか?

セレンディピティーを活用する

目的の本の探し方

あなたは普段どのようにして本を探していますか?

時間がないビジネスパーソンは、書評や口コミなどで自分の目的にあった本を絞って探しているかも知れません。しかし、セレンディピティの読書術では、1~2冊読んだだけでは目的を果たせません。同じジャンルの本でも、当然著者が違えば主張も視点も違います。1冊ではその著者の視点は得られるかも知れませんが、そのジャンルについては表面を理解した感覚になるだけで、本質を掴めるほどは読み込めないからです。

10冊以上の本を読む

ですので、セレンディピティを発揮するには、できれば同じジャンルの本を十冊以上、徹底的に読むことをお勧めします。

書店へ行くのであれば、そのジャンルの棚に置いてある本を片っ端から買い漁ったり、ネット書店で購入するならキーワード検索して、その分野に関係ある本を全部注文する。これで、色々な人が書いた同一分野の本が数十冊そろいます。

当然、表現は違えども内容に重複があるでしょう。この重複を発見するのが目的です。何冊も読むのがもったいないというのではなく、複数の本を読むことによって重要なポイントが分かるのです。どんな本にも書いてある同じことは、多くの人が認める重要ポイントだからです。

そして、ここでもしふと目に留まった本や妙に気になる本があれば(思い浮かんだら)、全く違うジャンルでも手に取ってみましょう。ジャンルを変えることで、少し視点が広がり、セレンティビティが発揮されるきっかけになってくれるかも知れません。

読み進めるべき本を見極める

複数の本が手元に揃ったら、その中からどの本をじっくり読むのか、どの本はざっと目を通して内容を掴むだけで済ませるのかを決めましょう。すべての本を隅から隅まですべて読み込む必要はありません。まずは読み始めてすぐに興味がなくなるような、前書きが面白くない本はその先も期待できませんから、それ以上読むのはやめましょう。

また、時間がいつまでもあると思うと、余計な文章まで読んでしまい、多くの本を読むことができません。まずは自分が何を知りたいのかという目的を明確にして、本文を読む前にざっと眺めてみましょう。ここで必ず時間制限を設けることが重要です。余計な思考をシャットアウトして、1冊の本を俯瞰することに集中しましょう。

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本の内容をざっくり掴む

本の内容をざっくり掴むには、著者プロフィールのチェックも有効です。

その後、本の帯、カバーの表そで、まえがき、目次(この時目次にペンでチェックを入れるのもお勧めです)あとがきの順で読んでいきましょう。これだけで、ある程度はその本の内容を想像することができ、大枠を掴むことができます。

パナソニックの松下幸之助氏やユニクロを展開するファーストリテイリング社長の柳井正氏は、本の「目次」「あとがき」を読んで自分にとって役に立つか判断し、読むと決めたら役に立つ箇所をメモする読書法を実践しているそうです。この方法なら簡単ですぐに真似できそうですよね。

本に書き込み

書き込みのすすめ

さて、大体の内容を掴んだら、今度は実際に読み進めていきましょう。

読みながら、重要だと思ったところなどに線を引いていくと時間の無駄がありません。ただ、このときに思いついたことを「あとでまとめてメモしよう」と思っても、実際には時間がなかったり肝心なアイデアを忘れてしまったりと、なかなか難しいものです。

本を読みながらひらめいたアイデアや、著者の主張に対する自分の考えは、余白や白紙のページに思い切って書き込んでしまいましょう。もちろん、汚い字でかまいません。人に見せるものではないので、自分だけが分かっていればいいのです。きれいな字で書こうとしたとたん、アイデアがストップしてしまうこともありますので、思いのままに書き込むことをおすすめします。

この書き込む過程が、セレンディピティを活かすために大切なポイントです。図書館等で借りて読むのもひとつの手ではありますが、書き込む良さは味わえません。自由に書き込むことでアイデアを自分のものとしていく重要性や有効性を知ってしまったら、本は購入する以外考えられなくなるかも知れませんね。

セレンディピティで柔軟な視点を

セレンディピティを意識した読書術、いかがでしたでしょうか?

時間がいくらあっても足りない現代人ですが、本から得られる恩恵は多大なもの。できるだけたくさんの本を読んで、頭も心も豊かになりたいですよね。

ただ、セレンディピティを強く意識しすぎても、やはり視点や考え方が偏ってしまうかも知れません。セレンディピティでひらめくアイデアを見逃さないように、余裕をもって楽しむくらいの姿勢が、本当に自分を活かしてくれるアイデアを生み出すきっかけになるかも知れませんね。