家族療法

家族療法とは。カウンセラーの視点


悩みを抱えている方とのカウンセリングにおいて、その方のご家族との関係が気になったり、家族背景を知っておく必要性を感じることがあります。

そういった場合に、医師や臨床心理士、カウンセラーが検討するのが、「家族療法」です。今回はこの「家族療法」についてお伝えします。

家族療法とは

通常の個人へのカウンセリングや心理療法では、相談者の何らかの心理症状をケアする時、その相談者個人の症状や問題にのみ焦点を当てて治療を進めていくのが一般的です。この場合、家族の存在はクライエントの治療を見守り、治療を続けていくためのサポート役であって、カウンセリングの対象ではありません。

一方、家族療法とは、相談者自身はもちろん、相談者を取り巻く家族関係や、家族全体を対象とする心理療法です。この家族療法では、相談者の問題は家族全体から表れたものと捉え、家族全体をカウンセリングすることで、相談者と家族の問題解決を目指します。

家族療法-通常の個人カウンセリング
家族療法-家族療法カウンセリング

家族療法とシステムズ・アプローチ

家族療法の特徴のひとつに、「システムズ・アプローチ」というものがあります。

このシステムズ・アプローチとは、もともとは経営工学のシステム理論ですが、簡単に説明すると、部分ではなく全体を、要素だけでなくその繋がりや相互関係を重視した問題解決手法です。

この考え方を心理療法に活かしたものが、家族療法です。家族を一つの集合体(システム)とみなし、そのシステム全体を問題の対象として、包括的な手段によって、問題解決をめざしていくものです。

家族療法でのIPとは

また、家族療法に特徴的な用語として「IP(患者とみなされた人:Identified Patient)」という言葉があります。

1つ例を見てみましょう。

17歳のA男は、小学校卒業までは特に問題を起こすような子どもではありませんでした。しかし、中学生になった頃から些細なことで怒りだすようになり、母親に対して度々暴力をふるうようにもなりました。

母親は、中学校のスクールカウンセラーに相談し、本人も希望してカウンセリングを受けるようになりました。高校でも相談は続け、学校では特に問題はありませんでした。ただ、多少は落ち着いたものの家庭での暴力は続いていたため、スクールカウンセラーから、家族療法を受けてみてはどうかと提案されました。

家族療法を受けることで、A男は初めて、家族への想いを話すことが出来ました。A男は幼い頃、父親に叱られる際に殴られたこと、そして、その時に母親が助けてくれなかったことに傷ついていました。現在は父親に殴られることはありませんが、今でも父親や母親が近い距離に入って来たり、進路や交友関係など、自分で決めたいことについて何か意見を言われ続けると、怒りがこみ上げて、つい暴力をふるってしまうということが分かりました。

この例では、IP(患者とみなされた人)は家庭内暴力をふるっている息子であるA男です。通常は、A男自身がカウンセリングを受けることで状況が改善していくことも多いのですが、それだけでは良い方向に進まない場合もあるのです。

家族療法では、問題が起こる要因は家族全体の関係性や相互関係にあると考えます。A男の家族の場合は、A男がいわば「患者」であり、A男が引き起こしている家庭内暴力は、家族というシステムに問題が生じていることの表れであるとみなすのです。

「問題」が問題なのではない

こうして、子どもの家庭内暴力を家族全体のものとして見てみると、実は両親の関係が良好ではない、あるいは夫婦間でのDV(身体的・精神的暴力など)が日常的にあるなど、家庭内暴力以外の別の問題点が見えてくることがあります。他にも、父親あるいは母親自身が自分の親から虐待を受けていた、社会的な差別を受けていた…など、世代を超えた様々な要因が見つかることもあります。

家庭においては、目に見える暴力だけではなく、家族間の日常的な言葉の暴力や、言語化されていない劣等感、罪悪感などの「歪み」が存在します。そのことで心に傷を残した場合、その歪みが家族システムに何らかの問題として表れるのです。A男家族の例では、それが息子の家庭内暴力として表出したのだと考えられます。

家族療法のカウンセラーは、このような家族間の「歪み」を見つけ出し、家族全員でこの歪みを解消できるようサポートします。こうして家族全体で自分たちの歪みを直していく過程で、IPの抱える問題行為がおさまっていくことがあります。直接的な治療では効果が得られなかった家庭内暴力が、家族療法によって、解消されることがあるのです。

なぜなら、A男の家庭内暴力はいわばダミーの問題であって、要因は家族の関係性にあったからです。

家族療法は「原因探し」をしない

家族療法では、あくまでも今ある問題点に焦点をあて、それをどう解消していくのかを重要視します。一般的に、問題解決のためにはその原因を突き止めて解消しようとしますが、家族療法では、家族の中で「原因探し」「悪者探し」をしないことが特徴です。

上記の例でいえば、息子が家庭内暴力をするに至った過程には様々な要因がありますが、それを家庭内暴力の原因と決めつけて、解決しようとはしません。なぜなら、原因探しをしてしまうと、家族の中で、父親が虐待していたからだ、あるいは母親が助けなかったからだ等、家族の誰かに責任転嫁をし、その人を攻撃してしまう可能性もあるからです。そして、それは、今ある問題点の解決には結びつきません。

家族療法で重要視するのは、「今」起きている問題をどのように解決していくか、ということになります。

A男の例であれば、

  • 両親はA男との距離を不快にならない程度に保つ
  • 進路や交友関係を本人に任せる
  • 親としての意見を伝える時は、頭ごなしに否定したり、立て続けに言ったりしない

というようなことが有効でしょう。

家族療法が必要とされる問題とは?

例えば、次のような問題が個人のカウンセリングではなかなか解決できない場合、家族療法を検討してみましょう。

  • 家庭内暴力
  • 不登校
  • ひきこもり
  • 非行問題
  • アルコール依存症
  • いじめの加害者になった
  • 摂食障害

など

他にも、様々な問題を家族システムという視点で捉えてみると、解決できる可能性があります。

特に、機能不全家族の「歪み」を引き受けて生きてきたアダルトチルドレンの人(※)は、まさにIP(患者とみなされた人)であると言えるのではないでしょうか。

※機能不全家族の「歪み」を引き受けて生きてきたアダルトチルドレンの人…機能不全家族とは、アメリカの社会心理学者クラウディア・ブラックが提唱したもので、家族の機能を果たしていない家族のことを言います。つまり、家庭が崩壊している状態です。アダルトチルドレンは、このような機能不全家族の中で育ち、成人になってもトラウマを持ち続けている人のことを言います。

参考

アダルトチルドレンを正しく知るために

家族が協力してくれない場合も…

家族療法が有効と思われる場合でも、家族が家族療法に対して必ずしも協力的とは限りません。しかし、それでもすぐに諦める必要はありません。まずは参加する意志のある家族だけで良いので、家族療法を受けてみることが大切です。

家族療法を受けた家族は、行動や考え方が変わっていきます。すると、乗り気でなかった他の家族にも徐々に良い影響を与え、考え方に変化が生じ、態度が軟化していくことが期待できます。そこで、落ち着いた頃に「あなたの意見も欲しいから、一緒に来て欲しい」ということを伝えてみると良いでしょう。

家族療法が受けられる場所は?

家族療法を専門とする病院や心理相談室、カウンセリングルームなどで受けることが出来ます。家族療法で問題を解決したい場合、臨床心理士や公認心理師の資格を所持している等、正しい知識と経験を積んだカウンセラーに相談することが大切です。

NPO法人日本家族カウンセリング協会には、「家族支援室」があり、家族療法を受けることが出来ます。他にも、「家族療法 ○○(お住まいの地域)」などで検索をしてみてください。

すでに信頼できるカウンセラーのカウンセリングを受けている方は、家族と一緒に利用できるかどうか、問い合わせてみるのも良いでしょう。

家族を取り巻く環境は、この数十年で大きく変わっています。そのことにより、家族の抱える問題や葛藤も変わり、問題を抱える家族が必要としている援助も様々です。もし、家族全体に問題があるのでは、と思ったら、家族療法を受けることも検討してみてください。