不思議の国のアリス症候群

皆さんは、急に自分の身体が大きくなった、または、小さくなったと感じたことはありませんか?

あるいは、時間の経過を早く感じたり、遅く感じたりしたことはないでしょうか。

それはもしかしたら、「不思議の国のアリス症候群」かもしれません。

不思議の国のアリス症候群

不思議の国のアリス症候群とは?

「不思議の国のアリス症候群」は、1955年、イギリスの精神科医Toddによって提唱されました。

ルイス・キャロル(Lewis Carroll)の童話 「不思議の国のアリスの冒険」にちなんで名づけられています。物語の中では、主人公アリスが薬や食べ物を口にすると、自分の身体が大きくなったり、逆に小さくなったりします。

Toddは、一部の患者が、物語の中でアリスが経験したような、身体イメージの知覚障害を持つことを発見しました。

アリス症候群の症状

主な症状について、研究者である宮岸勉は、次のようにまとめています。

  • 自分の身体やその一部分が急激に大きくなったり、または小さくなったりする奇妙な感じを体験する
  • 人物・物体が異常に大きく見えたり、小さく見えたりする、また実際より遠くにあるように見えたり、近くに見えたりすることがある
  • 身体やその一部分(特に頭部)が軽く感じられて、ふわふわと浮遊するような感じがある
  • 時間の経過が異常に早く感じられたり、逆に遅く感じられたりする

また、これらに現実喪失感離人症状(自分が自分の体から離れて、傍観しているような感覚)が伴います。

症状の現れ方は、人によって様々です。特に就学前~小学生の児童によく見られますが、大人にも見られます。子どもの場合はウイルス感染によって、大人の場合は偏頭痛の前兆で見られる場合が多いようです。

アリス症候群の原因

メカニズムはまだ解明されていませんが、以下のものが影響を与えるとされています。

  • 偏頭痛の前兆
  • てんかんの発作前
  • 統合失調症の経過中
  • 熱性せん妄(意識がなくなったり、突飛な行動を取る)
  • 脳腫瘍
  • 麻薬中毒
  • 離人症(自分の行動、外界などに対して実感がない)
  • 催眠状態

近年では、Epstein-Barr(EB)ウイルス感染によって引き起こされているとも言われています。

EBウィルスとは…ウィルスの一種。3歳までに約8割の幼児が感染し、思春期までに9割の以上の子どもが感染する。ほとんどの場合は無症状か軽い風邪や咽頭炎、扁桃炎程度の軽症状。一度かかると抗体が出来るので、再感染はしない。ただし、十代後半で初めて感染する場合、2~3週間たっても高熱やリンパ節の痛みが続くことがあるので、早期受診と適切な治療が必要。

アリス症候群の治療方法

「不思議の国のアリスの冒険」の作者ルイス・キャロルは、自身の日記の中に偏頭痛で悩んでいたことを記しています。もしかしたら、彼自身の体験から、あの不思議な物語のアイデアが生まれたのかもしれません。

治療は、原因となっている病気の治療が優先されます。影響を与える病気に心当たりのある方は、かかりつけ医に相談しましょう。心当たりがなく、片頭痛が原因と思われる場合は、神経内科、脳神経外科、精神科などを受診してください。まずは、他の病気ではないか検査を受けることになるでしょう。

子どもの場合でも片頭痛が原因となることがあります。その場合は小児神経科を受診してください。「小児片頭痛」が原因となる場合は、片頭痛そのものを防止していくことが大切になります。

◆片頭痛が原因となる場合の治療法

日常生活を整えることを大切にしていきます。

  • 規則正しい生活を送る
  • 睡眠をしっかり取る
  • ストレスをためないようにする
  • …など

また、病気を理解して受け容れること、病気と付き合っていくことも大切です。精神療法やカウンセリングを取り入れている病院もあります。

ただ、ほとんどの場合が一過性のものなので、過度に心配する必要はありません

◆子どもに相談された時は

子どもがこうした症状を訴える時、周囲の大人は、嘘だと疑ったり、「ただ怖い夢を見ただけだよ」と、真剣に取り合わないことが多いかもしれません。ですが、そのような対応は、子どもの不安を大きくしてしまいます。

もしも子どもが相談してきたら、まずじっくりと子どもの言葉に耳を傾けましょう。「怖かったね」「びっくりしたね」と、気持ちを受け止めてあげましょう。

そして、「こういうことが起きても大丈夫だよ」「時々起こることがあるよ」と、安心させてあげることが大切です。

大人がこうした症状を知っておくと、いざという時も慌てなくて安心ですね。


水津元 舞 水津元 舞(公認心理師・スクールカウンセラー)