認知症によく似た病気に、「仮性認知症」と呼ばれる病気があります。認知症の中でも代表的なアルツハイマー型認知症では、薬で進行を遅らせますが、仮性認知症は、抗うつ薬での回復が期待出来ます。
では、仮性認知症とはどのような病気なのでしょうか。
仮性認知症とは?
仮性認知症の原因の一つに、うつがあります。これは「うつ病性仮性認知症」と呼ばれるものです。
うつは認知症と間違われやすい傾向があります。認知症(ここでは主にアルツハイマー型認知症のことを指しています)の症状として特徴的な物忘れなどが見られますので、「認知症かな?」と誤解されやすいのです。
では、うつと認知症の違いは何なのでしょか。特徴的な面を比べてみましょう。
認知症
・物忘れがいつとはなしに始まる
・物忘れに対する自覚がない
・分からないことに対して、つじつまを合わせようとする
・身体症状はないことが多い
うつ
・症状は何らかのきっかけがあることが多い(配偶者との死別や社会活動の機会の喪失など)
・物忘れに対する自覚が強い
・エネルギーが落ちてしまっているため、考える努力を放棄してしまうように見える
・頭痛、めまい、食欲低下、不眠などの身体症状を訴えることが少なくない
高齢者のうつ
若年者のかかるうつと、高齢者がかかるうつは、少し症状が異なります。
一般的に、うつでは、精神的なエネルギーが低下し、気分がひどく落ち込んだり、何事にも興味を持てなくなったりします。強い苦痛を感じ、ほとんど毎日、何もしなくなってしまうことが特徴です。
ですが、高齢者のうつでは、抑うつ症状のような精神症状があまり目立ちません。耳鳴りやめまい、ふらつき、手足のしびれなどの自律神経症状の訴えが多く見られます。また、頭痛、腰痛、胃部不快感などの不定愁訴が目立ちます。そのため、身体症状に目がいきやすく、うつであることが見逃され、身体疾患と間違われてしまうことも少なくありません。
物忘れを訴えて来た患者さんが、認知症なのかうつなのかを区別することは大切です。
※不定愁訴とは、特に原因がなく、なんとなく身体のあちこちの調子が悪いと言う訴えのこと
早期診断、早期治療が大切です
うつ病性仮性認知症の治療は、抗うつ薬が有効です。
ただ、認知症の始まりがうつ症状であることも少なくありません。うつと診断されたとしても、その後も継続的に治療し、物忘れの経過を一緒にみていくことが大切です。
最後に、ご家族は、家族に認知症かもしれない症状が見つかった時、とても慌ててしまうことと思います。ですが、客観的に、家族の様子を観察し、いつ、どこで、どのようなことがあったのか記録しておきましょう。認知症に詳しい専門家と相談する際は、「徘徊」や「幻覚」などのような専門用語を使うよりも、ご家族の言葉のほうがよく伝わり、対策も立てやすいのです。
うつか認知症か自己判断せず、まずは認知症の専門としている医療機関もしくは心療内科に、ご本人と一緒にかかることをおすすめします。もしご本人がかかることを嫌がる場合は、地域包括支援センターで、ご家族だけでも相談することが出来ますので、利用してみてください。