自分でも「やめたいけど、なかなかやめられない」という場合、それは癖ではなく、チック症かもしれません。
今回は、チック症の症状と癖との違い、また、「大人のチック症」などについて、ご紹介します。
チック症とは?
チック症は、「本人の意思とは関係なく、突然、体が動いたり、声が出たりすることが、一定期間続く障害」です。10人中1~2人に見られ、女性より男性に多く、誰もがなる可能性があるものです。
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、「突発的、急速、反復性、非律動性の運動または発声」と定義されています。
◆見られやすい年齢
症状が出やすい年齢は幼児期~学童期頃で、その後、成長とともに症状はおさまっていくことが多いようです。
ただ、一部の人には成人を過ぎても症状が残る「大人のチック症」が見られることもあります。また、稀に成人してから発症する場合もあります。
◆チック症の主な症状
まばたきをしたり、肩をすくめたりなどの目にみえる症状は、皆さんによく知られているかもしれませんね。
チック症の症状は、生じる動作の種類によって、運動チックと音声チックに分けることができます。
<運動チック> | <音声チック> | |
・まばたきが多い
・目が横を向く ・目を回す ・白目をむく ・口を歪める、鼻をヒクヒクさせる ・首をグイっと引く、肩をすくめる |
・咳払い
・うなる ・鼻をクンクンさせる ・ほえる ・「アッアッ」と声を出す ・「ハー」と単純な音を繰り返すなど |
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複雑になると… | ||
↓ | ↓ | |
跳びはねる、人や物にさわる、たたく、 匂いをかぐ、など。 |
卑猥な言葉、汚言、他の人の言った言葉、自分の話した音声や言葉を繰り返す、など。 |
チックの症状は多様です。
上記のような、「乱暴だな」「非常識だな」と感じられる言動が、実はチックの症状である可能性もあるのです。
◆チック症の分類
チック症は以下の3つの主要なタイプと、その基準を満たさない2つのタイプの、計5つのタイプに分類されます。
1.トゥレット症/障害
複数の運動チックと1つ以上の音声チックの両方が見られるもの。同時でなくても、同じ期間に見られれば含まれる。
2.持続性(慢性)運動または音声チック症/障害
運動チックか、音声チックのいずれかが、1年以上にわたり見られるもの。
3.暫定的チック症/障害
運動チックか、音声チックのいずれかが見られるが、1年に満たないもの。多くの人がこのタイプに該当する。
※1は、神経系疾患の難病に指定されています。
4.他の特定されるチック症/障害
18歳以降の発症など、1~3の基準を満たさないが、チック症の症状が見られるもの。
5.特定不能のチック症/障害:チック症状が見られるが、1~4の基準を満たさないものや、診断を下すのに十分な情報がないもの。
ただし、多くの人は、1年以内に治まる一過性の「3.暫定的チック症/障害」に該当し、生活に支障がない場合は、治療の必要はありません。
◆癖との違い
チック症は、「癖」と一般的には捉えられることもありますが、神経学的には、不随意運動の一種で、運動の疾患として治療が行われています。次の点を、区別の目安にしてみましょう。
- 周りに指摘されるなどしたが、自分で「やめよう」と思ってもやめられない
- 多少抑えることができる場合もあるが、コントロールが難しい
つまり、自分の意志でその言動をやめることができるかどうかが、癖なのかチック症なのかを見分けるポイントなのです。
◆大人でもチック症状は出るの?
大人でもチック症状が見られることはあります。ただ、そのほとんどは、小児期に診断を受けることがなく、症状が継続していて、それが重症化したものや、再発した場合と言われています。
そのため、子どものチック症と大人のチック症は、症状自体にそれほど違いはありません。
先ほどのチック症の分類のうち、主要なタイプが18歳以前に発症したものと定義されているように、大人になって初めてチックが発症するというのは、稀なケースと言えるでしょう。
大人になってから初めて症状が出た場合、薬物による副作用、または他の病気(脳神経疾患や後遺症による脳の中枢神経障害など)によるものの可能性が考えられるようです。
チック症の原因
チック症の原因はまだ明らかでない部分が多いのですが、最近の研究では、脳の神経伝達物質ドーパミンの過感受性や活性低下によって引き起こされると言われています。
つまり、ドーパミンが上手く働かないと、身体の随意運動(自分の意志によって行われる行動)を調節している大脳基底核で異常が起こり、チック症状(不随意運動)が起こるというのです。
そのため、成長し、ドーパミン神経の発達が落ち着くと、チック症状が自然に落ち着いていくと推測されています。
◆他の症状と併発することも
最近では、発達障害や強迫性障害などの精神疾患を併発しているケースがあることも指摘されています。
その他に、チック症状への不安や、チック症状そのものが日常生活のうえでの支障となることで生じる二次障害として、睡眠障害、気分障害、自傷行為を併発したり、学力が低下が見られたりすることがあります。
◆ストレスとの関係は?
かつては「チック症は心の病気ではないか」と考えられていたこともあり、今でも「母子関係に問題が…」「育て方に問題が…」などと親が周囲に責められたり、本人も悩み、新たなストレスとなって症状を悪化させるケースがあります。
たしかに、本人が「やめなくてはいけない」と強く考えることで、かえって症状が悪化したり、人前で発表するなどの緊張場面で症状が強まったりするなど、精神的なストレスに影響されやすい部分はあります。
しかし、精神的なストレスがチック症の根本的な原因ではありません。基本的な原因は脳にありますので、チックが悪化する場を避けても、症状が治るということはありません。
普段通り、生活していきましょう。
チック症の治療や対処法
◆検査と診断
先ほど触れたとおり、多くのチック症は一過性であり、自然に収まります。
しかし、チック症が1年以上続いている、学校生活や仕事などの生活面に大きな支障があるという場合は、「小児科」「神経科」「精神科」で相談してみてください。病院では、治療のほかにも、チック症とどう付き合っていったらいいかなども教えてくれます。
チック症の検査では、まずチック症なのか、似た症状を持つほかの病気ではないかについて調べます。
例えば「てんかん」の症状のなかには、まばたきを繰り返す、肩をすくめる、手足の一部がつっぱる、口がピクピク動くなど、チック症と似たものが挙げられます。
そのため、血液検査や、CT、MRIなどの画像検査、さらに脳波検査が行われることがあります。
異常運動の原因が、ほかの病気ではなくチックと診断できた後は、チック症の種類を調べます。
◆治療
治療への第一歩は病気を理解することです。チック症は、正しく理解し、不安を取り除き、ストレスなどの要因を減らすことで、症状が治まっていく事もあります。
ただし日常生活に大きな支障をきたしていたり、周囲に迷惑がかかったりする場合は、薬を使って治療が行われることもあります。
<薬物療法>
現在の治療には、ドーパミン神経が正常に活動できるよう、ドーパミンを抑制する薬や、反対に、ドーパミンを極少量投与する方法が取られています。
<心理療法>
カウンセリング以外に、日本ではまだ主流とは言えませんが、チック症状と両立しない動作を行うことで症状を減らす、ハビット・リバ-サルという行動療法を行う場合もあります。
子どもの場合は遊戯療法(プレイセラピー)と並行して、保護者のカウンセリングを行うことがあります。子どもの精神的な安定をはかること、家族が症状を理解することで、チック症状を軽減させることができます。
他にも、症状を一般的に受け入れやすいような他の活動に置き換えたり、緊張や不安の軽減をはかる療法などが一般的に行われます。
◆周囲の正しい理解と対応が大切
咳払いなど、日常にありふれた動作のチックは、本人も周りの人も特に気にしていない場合が多いです。
しかし、まばたきなどの人の目にとまりやすいチックや「あー、あー」と奇声をあげたり、「ばかやろう」「くそっ」などの汚言は、周りの注目を集めてしまうことも…。
友人や同僚にからかわれたり、ばかにされたりすることで人間関係が難しくなったり、本人がそのことを気にして登校を渋ったり、出勤が苦痛になったり、外出がしにくくなったりすることが問題になります。
また、手に現れるチックなどでは、字を書くのが困難になるなど、日常生活に支障をきたすことが多いので、人目にはとまらなくても、ひとりで抱え込んで悩んでいることもあります。
チック症の症状は「障害」として、なかなか理解されにくいものです。
ですから、周囲の正しい理解は、困っている本人の助けとなるでしょう。
子どもにチック症状が見られたら
お子さんにチック症が見られた時は、基本的にはいつもどおりに対応してください。
叱ったり、反対に甘やかしたりしても、チック症が早く収まるわけではありません。
何か特別な対応をすると、過度にチック症を意識させることになります。特に、チック症状に対して「やめなさい!」と叱ったり、嫌な顔をするなど、拒否反応をとることは避けましょう。
お子さん自身がチックの症状に気づいていて、気にしている場合は、「大丈夫。心配ないよ。」という気持ちで接してください。
ただ、あまりにも本人が気にしているようなら、病院で相談してみてください。治療が必要であれば受けられますし、お医者さんにも「大丈夫だよ」と言ってもらえることで、本人が安心できる場合があります。
誰もがなる可能性があるチック症。例え、症状が出ても慌てずに様子を見て、必要に応じて、病院を受診してくださいね。