孤独がセルフネグレクトを引き起こす

何もかも「めんどくさい」…セルフネグレクトの心理

朝起きて着替える、ご飯を食べる、洗濯をする、身だしなみを整えて出かける、お風呂に入る…などなど。そんな当たり前の日常を、「面倒くさい」と思うことはありませんか?

具合が悪い時や気分が乗らない時、誰にでもそういう経験はあるのではないでしょうか。それでも大抵はしばらくすると元に戻るはず。

でもずっとその状態が続くなら、もしかしたら、それは「セルフネグレクト」の始まりかもしれません。

自分自身の「世話」をすることが億劫になり、だんだん生活が荒れていく…。

そんな「セルフネグレクト」はどうして起こるのか、またどのように解消していけばいいかを今回は考えていきたいと思います。

セルフネグレクトとは?

「セルフネグレクト」とは、医療や福祉の分野でよく使われる言葉で、直接的には「自分への怠慢」という意味です。

怠慢というと、「ただの怠けではないか」と思われる人もいると思いますが、ひどい時には死に至るまで自分自身を放置することもあります。

また、セルフネグレクトは、生活環境や栄養状態が悪化しているのに、それを改善しようという気力を失い、周囲に助けを求めない状態を指します。

これまでは、一人暮らしの高齢者に多いとされてきましたが、最近では、若いサラリーマンや大学生など年齢を問わず増えていると言われています。

「めんどくさい」から「セルフネグレクト」へ。その原因は?

日常の生活で「めんどくさい」という心理状態が続くと、セルフネグレクトへつながってしまう恐れがあります。

いつもめんどくさい、常にやる気が出ない…そのような心理状態になってしまった場合、それがいつ頃から始まったかを思い出してみましょう。

セルフネグレクトは、孤独感を覚える出来事、例えば、パートナーの浮気、離婚、家族の長期的介護、死別、友人の裏切りなどをきっかけとして始まることが多いです。

人との絆が切れてしまうことにより、生きていく意味を見出せなくなり、自分のことを大切にしようという意欲も低下してしまうのです。災害による不幸の場合も同様です。

一人で生きていくには、重すぎる悩みを抱えていくうちに、自分の世話もできないほど疲弊してしまうのです。

孤独がセルフネグレクトを引き起こす

この時、周囲に助けを求めることが出来れば良いのですが、セルフネグレクトに陥りやすい人は、人に迷惑はかけられないというプライドや、他人に頼っては申し訳ないという遠慮などで、支援を拒否してしまいがちです。

そうして、孤独状態が続くことによって、深刻なセルフネグレクトの状態になってしまいます。これ以外にも、経済的問題(失業、離職など)、仕事などのストレス自己管理が難しくなる病気(認知症、アルコール依存症、うつ病)がきっかけとなることもあります。

 

セルフネグレクトの症状

セルフネグレクトの症状としてまず挙げられるのは、日常生活を送る上で必要な自分自身の身の回りのことさえ行わなくなるという点です。

三食きちんと食事を摂ることがなくなり、お風呂に入ることも億劫になります。家の掃除も行わなくなり、家の中がだんだん荒れていきます。

症状の程度は人によって様々ですが、極端な執着思考の人や、物事を勝つか負けるかといった具合に両極にしか考えられない人ネガティブな事柄の原因を自分ではなく、相手のせいにしてしまいがちな人が特に反応が強く出やすいそうです。

また、もともと社会との関わりが薄く、孤立気味の人はセルフネグレクトに陥りやすいと言われています。

 

セルフネグレクトの具体的な例

セルフネグレクトの具体的な例として、“ゴミ屋敷”や“孤立死(社会から孤立した状態で亡くなり、長期間気づかれないこと)”が挙げられます。

例えば、ゴミ屋敷の住人は、ゴミを捨てることが億劫だったり、カップラーメンなど栄養の偏った食事しか摂らなかったりして、自分を大切にすることが出来なくなります。ひどい場合は、怪我や病気をしても、治療をせず放置したままなので、命に関わる状態にまで悪化してしまうこともあります。

ただ、例えゴミ屋敷状態になっていても、「この状態は自分にとってよくないんだ」という自覚が本人にある場合は、「なんとかしなくてはいけない」という気持ちが残っていることにもなり、セルフネグレクト状態であるとは言えません。

一方、「もうどうなってもいい」というあきらめの状態で、全てを放置してしまっている場合は、自分自身を放置しているということなので、セルフネグレクト状態に陥っていると言えます。

また、現在では都会、地方に関係なく地域とのつながりが薄れていると言われています。

そのため「孤立死」の場合も近所の人が気付くことなく、自分一人が孤立しているので状態が悪化します。そして、社会からの孤立状態が続くと、次第に判断力も低下し、命が危険な状態になっても自覚できないため、悲しい最期を迎えるということも考えられます。

セルフネグレクトから抜け出すために

では、そんな「セルフネグレクト」の状態から、どうすれば抜け出すことができるのでしょうか。

まず、考えられるのは行政による福祉的支援による解決です。ゴミ屋敷や孤立死は社会問題でもあるので、多くの地域でソーシャルワーカーによるサポートが得られるでしょう。

ソーシャルワーカー

しかし、「セルフネグレクト」の状態にある人は、そうした役所の手続きをすることさえ放棄したり、サポートそのものを拒否したりします。たとえ手続きを代行したとしても、そもそも「自分を大切にしよう」という気持ちが湧いてこなければ、結局は元に戻ってしまうことも多々あります。

そのため、最近では行政と住民が一丸となって、セルフネグレクトの原因である「孤立」を未然に防ごうという取り組みを行っている地域も出てきています。

自治体によるセルフネグレクト対策例

人口がおよそ11万人の岐阜県多治見市では、孤立死ゼロを目指す協力隊のプレートが至るところに掲げられています。市の呼びかけで、新聞配達や保険会社など86もの業種が住民を見守るために結成しました。

新聞販売店の経営者は従業員に「新聞がたまった家など、異変に気づいた時は、連絡するように」と呼びかけています。見守りを続ける中で、配達員の方が住民の異変をいち早く察知し、命を救ったこともあると言います。

身のまわりの人ができる対策は?

セルフネグレクト状態になった人には、必ずその状態になってしまったきっかけとなる出来事があるはずです。

そのため、私たちも、身近にいる人のそれぞれの事情や悩みをゆっくり聴くことが必要です。一人ひとりが力になることで絶望感や孤独感を解消することにつながります。

実家で親が一人暮らしをしている、また子どもが一人暮らしをしているという方は時々気にかけてあげるようにしてください。そして、実家に帰ったり、家に行った時には、様子をよく観察すると良いでしょう。その時に、

「以前より部屋が散らかっている」

「身につけているものが汚れている」

「元気がない」

と感じた場合は、必ず声をかけるようにしてください。セルフネグレクト状態の人は、自分から支援を求めるということがありません。セルフネグレクトの状態になっていても、支援が必要だと本人が気付いていないことも多くあるからです。そのため、「大丈夫だから放っておいて」「何とかするから大丈夫」などの返答が返ってくる場合もあります。

セルフネグレクト状態にある人も周りの人に対して心を開くことができれば、解決へ向けて、自らの一歩を踏み出せることでしょう。人間としての「絆」がキーになると言っても、過言ではないかもしれませんね。

 

「めんどくさい」を放置しないで

誰でもなりうるセルフネグレクト。では、そうならないためにはどうすればいいのでしょうか。

一番大切なのは、人や社会との関わりを持つということ。家族や学校、または会社とのつながりの中で自分の存在価値を見出すことで、セルフネグレクトに陥りにくくなります。

「自分自身のことや身の回りのことを行うのが面倒、めんどくさい」という心理状態がずっと続くようなら、もしかしたらセルフネグレクトの入口に立っているのかもしれません。

また、セルフネグレクトに陥っている人の中には、不規則な生活や不衛生な場所にいることによる体調不良が出ているのに、その原因がセルフネグレクトであることに気づいていない場合もあります。

まずは、現在の自分の状態を自覚してみましょう。いったんセルフネグレクトの状態に陥ってしまうと、自分だけの力で元の生活に戻るのはなかなか難しくなります。そうならないためにも、悩みを抱えていたり、孤独状態が続いている時には家族や友人など身近な人に頼ることが必要です。

なかなか自分の状態を把握するのが難しいという方は、メンタルヘルスマネジメント®検定Ⅲ種の資格取得もおすすめです。この資格講座で学ぶことにより、ご自身の今抱えているストレスの状態を把握できるようになります。それができるようになると、不調を抱えていても早くに気付くことができ、早期のケアも可能になります。また、必要であれば身のまわりの人に助けを求めることもできます。

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自分自身を振り返り、心のケア、そして自分の生活のケアを行っていくようにしましょう。くれぐれも一人で抱え込まないようにしてくださいね。

自分自身の心のケア、また身近な人の心のケアを図るためには心理学を学ぶことも有効です。上記でご紹介したメンタルヘルスマネジメント検定以外にも、気軽に学べる心理学の講座はたくさんありますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。