ぬいぐるみ好きの人の心理や、いつも寄り添ってくれる「ぬいぐるみ」がもたらす癒し効果について見てみましょう。
ぬいぐるみ好きの子ども
まずはじめに、子どもとぬいぐるみについて見てみましょう。
子どもは柔らかくて気持ちのいいぬいぐるみと、親友のような関係を築くことがあります。一緒に眠り、話し、泣く…他の人には言えないようなことも、ぬいぐるみにだけは相談することもあるかもしれません。
子どもにとって、ぬいぐるみも立派な「人格」を持っています。大抵ぬいぐるみはとても大人っぽい人格に設定されていて、物事の良い面に目を向けるように教えてくれるのです。
つまり、子どもの心の中にはちゃんと「大人」の部分があり、ぬいぐるみを通じてそれらの感情が引き出されてくるのです。
ドナルド・ウィニコットという精神科医は、1960年代の論文で、毎晩ウサギのぬいぐるみと話す男の子について書いています。その男の子は「うさちゃんが僕のことを一番わかってくれる」と言っていたそうです。
引用:TABI LABO
ウィニコットは、こうした存在を「移行対象」と名付けました。
これは、ぬいぐるみや毛布のような、子どもが愛着を示す対象のことです。小さな子どもはまず、母親と自分との区別がついていません。徐々に区別がついてくるようになると、母親と離れているときに不安を感じるようになります。この「分離不安」を紛らわせるために、「移行対象」が必要とされる、とウィニコットは説いたのです。
ぬいぐるみ好きの大人
ウィニコットは「これは、子どもだけに限ったことではない」とも述べています。大人も日常的に様々な不安とストレスを受け、本来の自分以上に「大人」であることを演じてしまっているのです。
そういったとき、ぬいぐるみと話すことは心の癒しになります。鏡に向かって自分に話しかけるとネガティブなことばかりが言葉に出てくるときも、ぬいぐるみに話すと、物事のポジティブな方に目が向けられるようになるそうです。
つまり「移行対象」には、親の代わりに安心感を与えてくれる効果があり、大人になってもぬいぐるみが好きだという人は、その対象がぬいぐるみである可能性が高いかもしれません。
幼少期にぬいぐるみと話すことが、不安を軽減し、安心感を得る方法だと知った子どもが、大人になってまた、日常のぬぐい切れない不安感を、ぬいぐるみによって解消しているということもありそうです。
ぬいぐるみ好きな人の心理
ぬいぐるみ好き=誰かと一緒に居たい?
また、ぬいぐるみ好きの人は、「誰かと一緒に居たい」という気持ちが強い可能性があります。
「誰かと一緒に居たい」と思う気持ちは、心理学用語で「親和欲求」と言われ、こちらは特に女性の方が強いと言われています。
女性にぬいぐるみが好きな人が多いのは、この親和欲求が関係していると考えることができ、「誰かと一緒に居たい」という気持ちを、ぬいぐるみによって解消しているのかも知れません。
ぬいぐるみ好きな人との接し方
ぬいぐるみに愛情がある人にとって、ぬいぐるみはとても大事な物です。
一方で、「いい大人がぬいぐるみなんて」とネガティブな意見を持っている人もいるでしょう。
そういった方は、ぬいぐるみ好きな人の心理を理解するよう心がけてください。
ぬいぐるみを可愛がる行為は、大人子ども、男女問わず自然な行為ですし、心理状態を安定させるメリットもあります。
決してからかったりするのはやめましょう。軽いニュアンスでも、馬鹿にされたと感じさせ、その人の自尊心をひどく傷ける事になりかねません。
ぬいぐるみ依存症?
大人になっても、不安感が強く、ぬいぐるみが手放せない人の中には自分自身深く悩みながらも、どうしていいか分からない人も多いでしょう。
その事が原因で、生活に強い支障を感じているようであれば、依存症の疑いもあります。その場合は無理に自分で解決しようとはせず、心療内科など専門家に頼ってください。
一般的な治療においては、無理に患者からぬいぐるみを引き離すことはせず、除々に自立をうながすことを薦めるようです。
「愛着があるぬいぐるみが捨てられない」といった葛藤であれば、ごく自然なことですので、心配はいりません。
ぬいぐるみの効果
不安や寂しさを解消してくれる「ぬいぐるみセラピー」
ぬいぐるみを抱くことによって不安が解消されることは、以前からよく知られています。また、実際に小児病棟や介護施設でのケア方法の1つとしてぬいぐるみが選ばれることもあります。一部では「ぬいぐるみセラピー」という治療法も存在しているようです。これは、自分の落ち着ける場所に行って、ぬいぐるみを抱きしめたり、なでたりするというものです。
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人は何かに触れることで安心感を得ます。特にぬいぐるみのように、ふわふわした物は安心感をより得やすいということが分かっており、ぬいぐるみは治療にピッタリなのです。
ぬいぐるみは抱きしめやすい大きさや形をしています。ぬいぐるみを抱きしめることで、自分の不安な気持ちや寂しさがぬいぐるみに投影されます。そうなると、まるで自分自身の心を抱きしめているかのように感じ、より心を安定させることができるのです。
癒し効果抜群!ぬいぐるみは子どもの味方
また、自閉症の子どもは特にぬいぐるみ遊びが好きであることが多いそうです。
いろんな経験をさせようと、親が外に連れ出しても売店に売っているぬいぐるみに釘付け。友達と遊ぶより、ぬいぐるみと遊んでいる時の方がリラックスしていたり、怒られた時にぬいぐるみを抱きしめて気持ちを落ち着けようとしていたり…。ネガティブな感情で心を埋めつくされてしまった時に、ぬいぐるみは助けてくれる存在なのです。
おそらく、変化に対応することが苦手な自閉症の子どもたちにとって、いつも同じ表情で自分を迎えてくれるぬいぐるみというのは、とても安心できる相手なのでしょう。生身の人間は、感情によってコロコロと表情・機嫌・態度が変わっていきます。
それに対して、ぬいぐるみはいつも同じ表情をしていますが、見る側の気分によって、いかようにも受け取ることができます。悲しいときには心配そうに、楽しく遊んでいる時には嬉しそうに、ただただ寄り添ってくれているのです。ぬいぐるみを抱きしめることによって傷ついた自分自身を抱きしめ、少しずつ心を回復させていくことができます。
自閉症などの発達障害を抱える子どもたちは、多くの不安を抱えている場合があります。
感覚過敏によって心が消耗してしまっていたり、自己肯定感の低さゆえに何気ない一言に傷ついてしまったり。そんな時にぬいぐるみは、子どもたちの心を回復させる手助けになってくれているのかもしれません。