電話に出ると、声が1オクターブ高くなり、よそいきの声を出す母親。
そのような行動は、なぜ見られるのでしょうか?
心理学ではこのような言動を「自己呈示」と呼んでいます。
自己呈示の目的とは
自己呈示とは、自分をより良く見せようとアピールすることです。先ほどの例からも、自分の印象を良くすることを目的として振舞っているということが、よく分かりますよね。
自分を良く見せようとする…と聞くと、ネガティブな印象をもつ人もいるかもしれません。しかし、自己呈示は意図的に行う場合もありますが、誰もがある程度は自然に行っていることで、それ自体は悪いことではありません。
自己開示との共通点と違い
自己呈示とよく似たものに「自己開示」があります。自己呈示と自己開示は「自分を見せる」という点では共通しています。しかし、自己呈示は自分にとって都合の良いところだけを見せることに対し、自己開示は、例えば弱点なども含め、ありのままの自分を見せると言う点で大きく異なります。
自己呈示5つの分類
自己呈示には、5つの分類があります。それぞれについて、具体的な行動と、メリットとデメリットを踏まえて見ていきましょう。
1.取り入り
相手に好かれようとするための自己呈示。女性に多く見られます。
例えば、「おっしゃる通りです」「私もそう思います」などと、相手の主張や意見に賛同したり、「ずっと仲良くしたいと思っていたんだ」と好意を伝えたり、相手の好きなファッションを取り入れるなどが挙げられます。
デメリット:八方美人や媚びていると思われる場合がある。
2.自己宣伝
「自分は能力が高い人間だ」という評価を相手から得ようとする自己呈示。自己顕示欲、承認欲求が強い人が行いやすいです。
例えば、実際に自分のすごいところを見せたり、「毎日、忙しくて…」「○○さんに、また仕事頼まれちゃったんだよね」などと、仕事が出来るアピールをしたり、有名な人と知り合いということを自慢げに言ったり、ブランド物にお金をかけるなどが挙げられます。
デメリット:うぬぼれ屋や、自慢ばかりしている人と思われる場合もある。
3.示範
「自分は良い人間である」という印象を相手に与えようとする自己呈示。
例えば、普段はだらしないのに、仕事の時はスーツを着て真面目そうに振る舞ったり、ルール違反を見つけると「そういうの、良くないと思うよ」と注意するなどが挙げられます。
デメリット:偽善者、つまらない人、面倒な人と思われる場合もある。
4.威嚇
「自分は強い人間だ」と思わせて相手を怖がらせ、自分の言うことを聞かせようとする自己呈示。
例えば、睨みつけたり、大声で怒鳴ったり、「クビにできる力があるんだぞ」と権力をチラつかせたりすることが挙げられます。
デメリット:相手が恐怖によって言うことを聞いているということに気付けず、尊敬されている、慕われていると勘違いをする。
5.哀願
「自分はかわいそうな人」「自分は弱い立場」という印象を相手に与えることで、相手に協力を求めようとする自己呈示。
例えば、「私、身体が丈夫じゃなくて」「自分はメンタルが弱いから」「小さい頃から親にひどいことをされてきた」など、弱点や不幸をアピールすることが挙げられます。
デメリット:自己卑下が過ぎると面倒な人と思われたり、頻繁だとかまってっちゃんだと思われる場合がある。
自己呈示とひと言でいっても、様々な形があり、いろんな場面で見られると言うことや、自分にとって都合の良い印象を持ってもらうための言動であるということががお分かりいただけたでしょうか?
ここからは、具体的なシチュエーションでの例を見ながら、更に理解を深めていきましょう。
自己呈示と恋愛
自己呈示は、恋愛の場面で多く見られます。相手に恋愛感情を抱いていて、今よりも更に自分に恋愛感情や親しさを感じてほしいと思う気持ちから自己呈示が行われます。
特に、お付き合いできるようになろうとする段階でよく行われています。
- 気になる人が参加する食事会で、いつもより食べる量を減らす
- 家庭的な人を好む相手に対し、「料理が好き」などのアピールをする
- いつもよりも周囲の人に親切にするなど、正しい行いをする
- 相手好みのファッションを服装に取り入れる
自分自身の行動で思い当たるものがあったり、見たり聞いたりしたことがあったりしますよね?度合いはあるかもしれませんが、このように、自然に行われていることがほとんどでしょう。
相手を魅力的に感じるほど行われる
自己呈示は、相手を魅力的に感じれば感じるほど、そして、相手が自分にとって価値が高い存在であればあるほど行われやすい傾向があります。つまり、ちょっと良いかなと思っている人よりも、すごく好みの人に対してのほうが強く自己呈示は行われます。
例えば婚活パーティや合コンなどに参加したことがある人なら、参加者は何人もいるのに、特定の人に対して周囲のアピールが集中したのを見たことがあったり、自分自身もしたことがあるのではないでしょうか?
関係が安定すると行われにくくなる
お付き合いが始まり、関係がお互いの認識として確立され、長く続いて安定していくと、徐々に自己呈示は行われなくなります。なぜなら、お付き合いをする中で相手に自分を知ってもらったことで、新たに良いイメージを持ってもらう必要がなくなってくるからです。
それは、親密になっていき相手が自分のことを知っていくにつれて、「こういう印象を持たれたい」という思いがなくなっていくからです。
ただし、お付き合いの期間が長くても、関係が不安定な場合は自己呈示が続けられます。長く付き合っているからと言って、関係が確立していたり、親密度が高まっているとは限らず、関係を維持しようとして自己呈示が続けられるのです。
また、持ってもらった好評価を証明する(「私は本当に、こういう良い人間です」)ことを目的としたり、今以上に自分に恋愛感情や親しさを感じてほしいと思うことが自己呈示を促進される場合もあります。
自己呈示のしすぎに注意
自己呈示自体は悪いことではないと冒頭絵もお伝えしましたが、対人関係に不安や難しさを抱えていて、自己提示をしすぎてしまうという状態になっているのであれば、注意が必要です。
もし、「つい、大きな事言ってしまう…」「同僚に強く言ってしまう」「つい、周りに好かれようとしてしまう」ということで悩んでいる人は、心理学や人間関係について学んだり、身近なカウンセラーに相談してみると良いでしょう。
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