現役スクールカウンセラーに聞く「SCのお仕事」

学校及び生徒や保護者への影響を考慮して、匿名で掲載しております

スクールカウンセラーカウンセラー Mさんプロフィール

現役スクールカウンセラー

神奈川県横浜市出身、心理学修士(明治学院大学文学部心理学科/明治学院大学大学院心理学研究科心理学専攻)。都内の中高一貫校にてスクールカウンセラーとして勤める傍ら、心理にまつわるコラムの執筆や、心理コンテンツの作成を手がける。1児の母として、子育てと仕事を両立中。

カウンセラーになったきっかけ
–まず、スクールカウンセラーの道に進むことになった、きっかけをお聞かせください

私が小学生の頃、スクールカウンセラーという職業はまだありませんでした。ただ、中学に進み、部活動の顧問の先生に色々な事を相談しているとき、話しているうちに心が落ち着いていくということを経験しました。そして、「自分も学校で生徒の相談を聞ける人になりたいな。でも、勉強を教えるのはそんなに好きでもないかな」と、漠然と考えていました。

また、高校受験の時には、塾の先生にも相談をすることが多かったのですが、そのときも、「困っている人の相談を聞ける人になりたいけれど、勉強を教えるのは…」と思っていました。

高校生になり、受験を控えた先輩の大学案内を見せてもらった時、「心理学科」という文字が目に留まりました。ちょうどその時期に、スクールカウンセラーという職業が日本で生まれ、「勉強を教えなくても、学校で生徒の相談を聞ける仕事がある」ことを知り、目指したいと思うようになりました。

スクールカウンセラー
学校内の相談室で、児童生徒や家族の相談に応じ、教職員のコンサルテーションを行う心理の専門家です。スクールカウンセラーという資格はありませんが、8割が臨床心理士で、それ以外に臨床発達心理士や心理学系大学院の修士以上、心理学系大学の教員などが勤務しています。今後は臨床心理士にかわり、公認心理師の資格が求められるとされています。
–そして今はスクールカウンセラーとして、生徒の相談を聞く立場になったのですね。現在の職場について、お聞かせいただけますか?

私立中高一貫、中高合わせ全36クラスのマンモス校です。専用の相談室も設けてあり、週3日の非常勤でスクールカウンセラーとして働いています。

–スクールカウンセラーは週1日しかいない、という学校も多いと聞きますが…?

公立学校では、一人のカウンセラーが3~4校を受け持ち、週1回ずつ通うケースが多いようです。私立学校の場合は、独自の教育方針もありますので、学校によって、カウンセラーの常駐日数や人数も異なるようです。

カウンセラーの1日のスケジュール
–では、1日のスケジュールはどのようになっていますか?

9:30に出勤し、まず職員室と保健室で、予約や引き継ぎ事項を確認します。午前中は、保健室登校や相談室登校の生徒がいる場合、面談を行います。保護者との面談も、多くは午前中に予定しています。というのも、生徒の相談可能な時間は基本的にお昼休みと放課後のため、その時間は生徒が自由に来室できるようにしておきたいからです。

昼食は早めに済ませ、お昼休みに相談に訪れる生徒に備えます。

教員や学年主任の先生との打ち合わせは随時行っています。その他、面談後にはカウンセリングの記録をつけたり、2カ月に1回ほど、人間関係に役立ててほしい心理学のコラムを綴った「相談室だより」の作成などもあります。

9:30 出勤、引き継ぎ
10:00 面談、記録、教員との打ち合わせ・コンサルテーション、他
11:30 休憩(昼食@学食)
12:30 面談(生徒お昼休み)
13:30 面談、記録、教員との打ち合わせ・コンサルテーション、他
17:00 終業※残業はほぼなし
カウンセラーのしごと
–生徒の悩みを聞くだけでなく、教員との連絡も多いのですね?

はい。スクールカウンセラーの仕事は、相談に来てくれた生徒のカウンセリングだけではなく、教員のコンサルテーションも行います。むしろ、生徒と毎日接している教員を専門的にサポートすることは、生徒のメンタル面の安定につながるため、より効果的だと感じます。

生徒からの相談内容については、カウンセラーには守秘義務がありますので、第三者や担任の教員であっても、勝手に話すことはしません。他の人(相談者が生徒であれば、教員や保護者)に協力してもらったほうが良いと判断した場合には、「この内容は伝えてもいい?」と確認し、承諾が得られた場合だけ、情報を共有して問題の解決にあたります。

学級担任は、授業に出席していない生徒のことは当然把握していますので、「最近、相談室に来ている?」といった確認があったりしますね。相談室に来るということは、前向きに問題を解決しようとしているということでもあるので、相談室利用を知られても構わないと言っている生徒の担任教員には、来室していることは伝えています。

現役スクールカウンセラーにお聞きしました
–守秘義務のお話がありましたが、スクールカウンセラーには学校への報告義務もあると聞きます。そのあたりの判断は難しいのではないでしょうか?

学校によって、報告が必要な内容や程度は違ってくるかと思います。私の勤務校では、相談内容を記録していますが、その全てを学校側に報告する義務はありません。ただし、自傷他害の危険性がある場合は、守秘義務の範囲外となりますから、伝える必要性を本人にも話した上で、了承を得られなくても、報告しています。

–その他に、スクールカウンセラーならではの難しさはありますか?

例えば高校の場合、単位制ですので、欠課数が多かったり出席日数が足りない場合は、単位が足りず進学できない等の不利益があり、そうなると新たな問題が出てきてしまいます。とはいえ、心の問題がある状況で登校を急かすわけにはいきませんので、そのあたりのバランスの取り方が難しいと感じます。

10年ほど勤務しているので、だいぶ慣れてきましたが…、学校の制度やしくみを覚えておく必要があるので、最初の頃はそれも大変でした。学校のアセスメント(※1)が大切です。

カウンセリングの勉強について
–在学中のことについて、お聞かせください。まず、大学では、カウンセリングについての勉強はどのようなものがありましたか?

講義ではカウンセリングなど心理療法の歴史や技法について学び、実習ではカウンセリングのロールプレイ(※2)を行いました。

様々な技法を知ることで、自分がカウンセラーとなった時に、どんなフィールドで、どんな技法を主として行っていきたいのか方向性を定めることが出来たように思います。

–では、修士課程で、大変だった点はどのようなことですか?

学部とは異なり、 より専門的なことを学びますし、自分の修士論文と向き合うことも大変でした。

また、修士論文を書くにあたり、質問紙調査というものが必要だったのですが、対象が中学生だったため、データを取らせていただける学校を探すのにも苦労しました。

講義は大学に比べると少ないですが、その分学外での実習が多く入ります。午前は小学校で実習、午後から夜まで講義がびっしりという日には、最後の授業で眠ってしまい、教授に心配される…という事もありました。

勉強した事は、すべて役に立っています

–大学・大学院で勉強されてきましたが、修士課程で学んだことで、カウンセラーの仕事を行っている上で役立ったというエピソードはありますか?

学んだことは全てスクールカウンセラーとして必要なものであったということを、働き始めてすぐに実感しました。

元々スクールカウンセラーを志望していたので、学校心理学や、発達障害を持つ生徒への支援などは中心的に学んでおり、すぐに対応することが可能でした。

例えば自閉スペクトラム症をもつ生徒のケースでは、教員に対し、本人の行動をどう理解すれば良いか説明したり、本人に対して、我慢し過ぎて爆発する前に、周囲に助けを求めるにはどうすれば良いか方法を教えたりすることがあります。

反対に、精神医学については、勉強が不足している部分があったので、働きながら勉強したことが多いです。

大学や大学院では、自分の専門以外の領域でも、必要な情報へのアクセスの仕方、学び方を知ることが出来ました、役立てようとすることだと思います。

恩師について
–心理学について、恩師のような方はいらっしゃいますか?

はい。大学、大学院のゼミの教授が恩師です。もう亡くなってしまいましたが…、今でも教えていただいたことは、私のスクールカウンセラーとしての在り方の基本となっています。

–大学院を修了後、カウンセラーになってからも、何か自主的に学ばれていることはありますか?

はい。「日本学校心理学会」に所属しており、年1回の大会や個別の研修会に参加して、新しい研究の情報などを得るようにしています。今年は、「国際学校心理学会」との合同プログラムがありますので、例年とはまた違った有意義な時間になるのでは、と楽しみにしています。

興味のあるテーマについては、単発のワークショップ等にも参加しています。今年は、公認心理師試験を受験予定ですので、それに向け、勉強の真っ最中です。

公認心理師
2020年6月21日に実施を予定していた第3回公認心理師試験は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から延期となりました。延期する試験の日程は、現時点では未定です。

(※1)アセスメント…狭義では心理状態を把握する為の心理検査だが、クライエントを取り巻く環境を診断する意味でも用いられる。

(※2)ロールプレイ…ロールプレイング。カウンセリングのロールプレイでは、相談者と、カウンセラー側に分かれて実習を行う

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