レジリエンスを鍛える~ハーディネスからレジリエンス(回復力)へ

レジリエンス、心の回復力

レジリエンス(resilience)とは、心理学では「精神的回復力」と訳されます。大事な会議の前になるとお腹が痛くなる…、上司の前で緊張して話せなくなる…そんな時、「自分は、心が弱いのかも?」と思った事がありませんか。

心が弱い…の「心」とは?

心が弱いとは、一体どういうことなのでしょうか。そもそも「心」とは何でしょうか。身体のどこにあるのでしょう?

アリストテレスは、「心」は胸(心臓)にあると考えました。確かに、緊張すると心臓がドキドキしたり、「胸が痛む」というように、罪悪感や何かを心配する気持ちから心臓が痛くなることがあります。ですが、もし人工心臓を移植したとしても、その人の「心」が無くなってしまうわけではありません。

一方で、医術の祖ヒポクラテスは、「心」は脳にあると考えました。確かに、物事を考え、情緒を感じるなど、こうした脳のあらゆる働きを「心」と呼べるのかもしれません。

近年の研究では、心とは脳であるという考え方が支持されているようです。もし仮にそうであるとすれば、心を育てるというのは、脳の働きを発達させることとも言えそうです。ただ、脳の働きを発達させるというと、自分の力でどうにか出来るものではないように感じてしまいますよね。

ハーディネスからレジリエンスへ

1990年代以前、世界では、強靭な心、頑強な精神のような「ハーディネス」という考え方が重視されてきました。ハーディネスとは、高いストレスの下でも健康を保つ事が出来る性格特性です。

日本でも、2000年代には「強い心」を育てることが重視されてきました。それは同時に、「強者」育成の発想であり、競争力を育てることにもなりました。

一方で、世界では、徐々にレジリエンス「(心の回復力)」を育てることを重要視していくようになっていきました。レジリエンスは、逆境やストレスにさらされても精神的な健康状態を維持できる力、あるいは不適応状態に陥ったとしても、そこから回復する能力の事です。

近年では日本でも、「ハーディネス」から「レジリエンス」、つまり「心を強くすること」よりも、「心の回復力を育てること」が大切だと言われるようになってきています。

レジリエンスは育てられる

レジリエンスは、特定の人が持っているハーディネスとは異なり、誰もが持っているものです。

大きな失敗をしたり、大切な人を失ったり、自然災害に遭ったり…私たちは落ち込む事があると、もう二度と立ち直れないと思う事がありますが、実際は時間が経つにつれ、徐々に立ち直り、心の傷は癒されていきますよね。この立ち直ることのできる力がレジリエンスです。

ただ、同じ出来事に遭っても、深く傷つく人と、乗り越えるのに時間がかからない人がいます。これは、レジリエンスの高さに違いがあるからです。

レジリエンスの高さは生まれながらに決まっているものではありません。元々の性格や、生まれ育った環境に左右される部分もありますが、大人でも、高めていくことが出来ます。

それでは、レジリエンスを育てるにはどうすればよいか、見ていきましょう。

レジリエンスを育てる方法

レジリエンスを高める方法は、「感情の連鎖を断ち切る」「立ち直る」「経験を教訓化する」という3つのステップによって成り立ちます。

ネガティブな感情の連鎖を断ち切る

感情は抑えずに出す事が大切ですが、繰り返されると立ち直り辛くなります。連鎖を防ぐために次の事を試してみましょう。

・感情のラベル付けをする

例えば、不安、不満、嫉妬、失望…など、湧いてきた感情に名前を付けてみましょう。冷静になる事が出来ます。

・気晴らしをする

嫌な感情はなるべくその日中に解消しましょう。運動、趣味、音楽、気持ちを書き出すなど、やってみて気が晴れる事をしてみましょう。

・呼吸法を取り入れる

深呼吸や、マインドフルネスの呼吸法(目を閉じ、4秒ゆっくり吸い、6秒ゆっくり吐くのを3分繰り返す)などをしてみましょう。

・一緒にいると気持ちが落ち込む相手と距離を取る

ネガティブな感情は人からも連鎖します。ポジティブな人と一緒にいるようにしましょう。

・環境を整える

職場や学校など、環境からのストレスがあれば、環境改善も大切です。

サポーターを見つけて立ち直る

立ち直る力を付けるためにまず大切なことは、自分を支えてくれる人を見つける事です。

なにも新しく探す必要はありません。あなたの周りに、相談に乗ってくれる人、困った時に情報提供をしてくれる人、アドバイスをしてくれる人、一緒にいるだけで安心出来る人はいないでしょうか?家族をはじめ、友人、同僚など、周りにいる人を振り返ってみましょう。あなたにとって大切な人を思い浮かべてみても良いでしょう。

あなたが学生であれば、信頼できる先生か、スクールカウンセラーに相談する事も可能です。

誰かに話を聞いてもらえるだけでも、立ち上がる元気が出てきますし、「自分は周りから関心を持たれている」「見守ってくれる人がいる」「困った時は頼っても良い」「自分は一人ではない」と感じる事で、安心して頑張る事が出来ます。

大人になると、場合によっては交友関係が狭まり、相談できる相手が少なくなることもありますが、その場合は、医師やカウンセラー、公的な相談窓口の相談員などに相談する事も出来ます。

自信を取り戻す

立ち直るには失った自信を取り戻す事も大切です。

・お手本を見つける

親や上司、先輩など、似た経験をして立ち直った人の話を聞いてみましょう。

・小さな成功体験を繰り返す

少し頑張れば出来そうな目標を達成することを繰り返しましょう。

・前向きな気持ちになれる場所に行く

ポジティブな人が多い場所、助け合いのある良い雰囲気の場所に行ってみましょう。

・自分の強みに気づく

自分の良いところはどこか、自分で考えたり、周りに聞いてみたりしましょう。性格診断を受けてみるのも良いでしょう。

教訓化する

立ち直る事が出来たら、最後に「教訓化」を行います。乗り越えた体験を振り返り、次につながる意味を学びます。そうすることで、次に困った事が起こっても何とかなるという自信につながるのです。人は逆境を乗り越える事で、成長し、レジリエンスを育てていくことが出来ます。

あなたも、この3ステップを参考にしてぜひ取り組んでみて下さい。

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